2024年03月28日( 木 )

「観光立国」にコロナ禍の大打撃、問われるインバウンド事業の本質(後)

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 日本は2003年以降、「観光立国」としてインバウンド事業拡大に力を入れてきた。リーマン・ショック、東日本大震災と苦難を受けながらも驚異的な躍進を続けてきたが、コロナ禍によってその状況は大きく変わり、関連企業は軒並み厳しい状況に追い込まれている。

業績急伸に隠れた課題(つづき)

 また、【図5】のように、買物場所(全目的)はコンビニエンスストアが最も高く73.9%、次に空港の免税店が59.8%、ドラッグストアが59.5%、百貨店・デパート55.6%、スーパーマーケットが48.2%などが続いている。また、観光地の土産店は29.9%しかなく、訪日外国人旅行者の買物はほとんどが小売大手、もしくは空港などの免税店で行っていることがわかる。大手企業が地方に出店することは地方の雇用を生み出し、一定の経済効果となり、インバウンド事業の目的には観光地における雇用創出と過疎地における人口減少の歯止めがある。

 その一方で、観光客の多くが大都市に本社を置く企業から購買しても、観光地である地方の地元企業への消費効果はわずかであり、観光立国の理念である「地域社会の持続可能な発展」に直結しているとは言い難い。

 「このような地域でこそ、地産地消ではなく、地消地産の考え方が重要」であると山田氏は訴えている。地消地産とは、地域で消費するものを地域で生産するという考え方で、より消費に重点を置いた考え方だ。

問われるインバウンドの本質

 (一社)日本インバウンド協会・理事長の中村好明氏は、「観光立国とは、レジャーにとどまらずさまざまな目的でその地域外から来てもらい、経済を活性化させることを指すと考えています。多くの人がレジャー=観光と誤認しがちですが、観光とは観光旅行者に限らず、留学生や労働者、日本に定住する国際結婚者なども対象にした持続可能な社会を形成することが重要なのです」といい、日本における観光への概念が矮小化していると指摘している。中村氏によれば、インバウンド事業に関わる産業は旅行代理店やレジャー向けの施設やサービスだけにとどまるものではなく、不動産や建設など一見関係のないような産業を含んだ「地域まちづくり」の性質をもつとしている。

 現在、日本のインバウンド事業は観光・レジャー部門が軸になっていることは間違いない。前述したように、これまでの日本のインバウンド需要は、主に大手企業によって提供された「宿泊」「買物」「飲食」が支えてきた。また19年の年次報告書を見ると、訪日外国人旅行者の主な来訪目的は観光・レジャー部門が76.8%を占めており、業務(展示会・見本市/国際会議/企業ミーティング等)は13.9%にとどまっている。

 インバウンドを専門とし、地方創生事業や民間企業のコンサルティング事業を行う(株)やまとごころの代表取締役社長・村山慶輔氏は、「観光事業として訪日人数や売上高に注視するあまり、インバウンド急伸の負の側面として地方創生につながらない部分が出てきている地域もある」としている。

 また、村山氏は自身の著書で、次のように指摘している。

 「拡大したマス・ツーリズム(※1)は、経済のメリットを事業者や旅行会社にもたらした。(中略)その結果、地域にデスティネーション・マネジメント(※2)に関する知見の蓄積がなされぬまま、ただただ受け入れ側が疲弊していくという構図を生んだ」(「観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード」プレジデント社、2020年発行)。

    日本のインバウンド事業は03年のビジット・ジャパン事業開始以降、最大の危機に陥っている。その一方で、来たるべきときに向けて、観光立国の在り方を再認識するとともに改善する機会が訪れているともいえる。観光事業では一時的な特需ではなく、持続可能な社会形成「地域まちづくり」に向けた取り組みが必要となるのだ。

※1:観光の大衆化、または大量の観光客が発生すること。観光は一部の富裕層の娯楽だったが、第二次世界大戦後以降、大衆の経済力向上によって広く普及したことを指す場合が多い。 ^

※2:観光産業による地域おこしを展開する際、地域ごとの特性を活かし差別化を図るもの。 ^

(了)

【麓 由哉】

(中)

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