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2021年06月20日 06:00

ニューヨークとコロナ~町が生き返る(前)

 大嶋 田菜(ニューヨーク在住フリージャーナリスト)

6月のニューヨーク
6月のニューヨーク

 毎年、5月の末のメモリアル・デー(戦没者追悼記念日)が過ぎると、青空に突然大きな入道雲が湧き上がり、蒸し暑い夏がやってくる。しかし、今年はせっかくの3連休も寒く雨の日ばかり。バーベキュー・シーズンが本格的に始まるというのに、ビルのベランダや屋上からは焼肉の匂いもせず、賑やかな声も聞こえてこない。ニューヨークでは、もうコロナ感染者が少ないにもかかわらず、こんなに静かなメモリアル・デーを過ごすなんて少し不気味さを感じる。そして6月になっても、気温の低い日が何日も続いていたが、ようやく予想通りの強烈な暑さに変わった。

 ニューヨークはもうほとんど普通の日常に戻ったように見える。ワクチンを打って2週間後にはマスクなしで外出も可能であり、レストラン店内で食事もできるようになった。ブロードウェイも再開しますよ、とデブラジオNY市長が報告。ひどく落ち込んでいたタイムズ・スクエアも、近頃はギャングやマフィアがあちこちから集まって、真っ昼間から不審なやりとりをしている。これで劇場が開いたら、少しずつ賑やかになるだろう。

 とはいえ、オフィスの多いミッドタウンの将来はまだまだ不安だ。倒産や閉店した会社や店もあれば、いつ復活するかもわからないオフィスもたくさんある。その周りの商店、レストラン、喫茶店、飲み屋などはもう1年半前からほとんど客が来ず、営業停止に追い込まれるばかり。とくに東ミッドタウンのサットン・プレースはオフィス街と住宅地の中間地帯にあるため、厳しい状況に苦しんでおり、5店に1店が閉店している。

 週末は子ども連れの家族がのんびり散歩しているファースト・アベニューも閑散とした店が並び、まだ少し心細い。54丁目の行きつけのカフェも、まるで停電があったかのように中は真っ暗で、「閉店」の看板がドアガラスにぶら下がっている。脇を通り過ぎる若い黒人男性が笑って教えてくれた。「2週間だけ休むって言っていたけど、あれっきり閉まったままだよ」

 冬は寒すぎて夏は暑すぎる、このニューヨーク。娘とバス停の日陰で汗をかきながらバスを待っていると、ベンチに腰掛けている70歳ほどの髪の毛を金髪に染めた老婦人が、娘のカリフォルニアのTシャツをじっと見て、目を輝かせながら「カリフォルニアに行ったことがあるの?」と尋ねてきた。「昔カリフォルニアに住んだことがある」と答えると、老婦人は口を大きく開けて、「いいねえ。でも、ニューヨークもいいでしょ?私、ニューヨークで生まれ育った。やっぱり、ニューヨークは特別な町じゃないかしら」と嬉しそうだった。化粧がやたらに濃い老婦人だった。

(つづく)

※画像は著者撮影、提供


<プロフィール>
大嶋 田菜
(おおしま・たな)
 神奈川県生まれ。スペイン・コンプレテンセ大学社会学部ジャーナリズム専攻卒業。スペイン・エル・ムンド紙(社内賞2度受賞)、東京・共同通信社記者を経てアメリカに渡り、パーソンズ・スクールオブデザイン・イラスト部門卒業。現在、フリーのジャーナリストおよびイラストレーターとしてニューヨークで活動。

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