2024年04月26日( 金 )

人口減少社会で求められる、国土管理の在り方とは

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避けられない維持管理の問題

住宅街 イメージ  日本の人口は2008年の1億2,808万人(総務省統計局資料、千人以下省略)をピークに減少を続けており、21年には1億2,536万人(5月1日現在)となった。一方で、高齢化は進んでおり、65歳以上の人口は3,632万人(5月1日現在)と、人口全体の29%を占めている。これは過去最高となる割合で、国民の約3人に1人が高齢者という現実がある。

 そうした状況下でそう遠くない将来、国土の維持管理が困難になることは避けられず、管理水準の低下や土地需要の減少、空き家の増加や農地荒廃といった問題があらわになってくるだろう。国土交通省は解決策を模索するなか、既存の「国土利用計画」で示された「国土の選択的利用」、多様な主体による国土の「国民的経営」による利活用といった方針を実行していくために、「国土管理構想」の策定に着手。都市郊外部の宅地において実際に現地調査を進めるなどし、都道府県をはじめ、市町村ならびに各地域など、それぞれの状況に応じた国土管理の指針を打ち出そうとしている。

増え続ける荒廃農地と空き家

農林水産省公表「令和2年耕地面積」参照
農林水産省公表「令和2年耕地面積」参照

 日本は国土の約7割が森林で、約1割が農地、残りの約2割が宅地や道路、河川水路などとなっている。食料自給の観点からも農業の重要度は高いが、耕地面積は年々減少を続けており、16~20年までの5年間で9万9,000ha(東京ドーム2万1,000個分相当)が新たに耕作放棄地となった。土地区画整理事業などの再開発にともない農地転用が進んだことも一因だが、後継者不足などの理由によって農地が長期間放置され、荒廃農地(作物の栽培が困難となった農地)となったことが大きい。

 農林水産省では、調査結果から荒廃農地の面積を約28万ha、このうち再生利用が可能な面積を約9万2,000ha(18年時点)と算定。再生利用の実現に向けて、農地を貸したい側と受けたい側のマッチングなどを通じて、農地の集積・集約を図る「農地中間管理事業」の促進に努めている。

総務省公表「平成30年住宅・土地統計調査」参照
総務省公表「平成30年住宅・土地統計調査」参照

 また、総務省の統計(上表参照)によれば、1963年から2018年までの55年間で、空き家の数は52万戸から846万戸まで増加。空き家対策は喫緊の課題となっている。

 荒廃農地対策や空き家対策など、国土管理構想の実行が急がれるなか、国交省は21年5月26日、第21回「国土審議会計画推進部会国土管理専門委員会」(委員長:中出文平・長岡技術科学大学教授)を開催し、「国土管理構想(案)」を発表した。

時代に合った国土管理に期待

 同案では、国土管理において市町村や地域レベルでの話し合いや、実践的な取り組みの推進、情報の共有が不可欠であるとし、自治体職員の研修を通じた意見交換、モデル事業の実施などを行う旨が提案された。

 国土管理構想では、国がルールを決め、各市町村や地域がそれに従うのではなく、都道府県、市町村、地域ごとにそれぞれのエリア特性に合った管理構想を策定することで、効率的な国土管理を目指す。地方を中心に、元の住民の高齢化によって実際に居住していない外部住民(結婚を機に転出した家族など)が実質的に不動産を管理しているパターンが増えており、こうした問題に対応するためには、地域特性を踏まえた方法論が必要になるためだ。

 合わせて、集落が年月をかけて形成してきた独自の自治機能維持のための支援(人材や組織の創出、または育成)も重要であるとし、ソーシャルキャピタルの機能発揮への期待感も示された。このほか、持続可能性や人口減少、気候変動、災害リスクの増大、ライフスタイルの変化、デジタル技術の活用に対応した国土利用・管理といった、「時代背景」の変化に対応した国土管理を行うべく、必要な基礎的情報を一元的に提供可能な「LUCKY(土地利用調整総合支援ネットワークシステム)」の活用も視野に入れる。
 土地の開発や最適な利用法が重要視された経済成長時代の管理方法では、前述の時代背景に起因する諸問題には、もはや対応することはできない。国土管理構想は、そうした前時代的な管理方法を、各省庁の横断的な連携によって改善することで、目指すべき新たな「国土像」を示そうとするものだ。

 今後は、同案に修正点などを反映させたものを確認のうえ、最終案として6月下旬開催予定の国土審議会計画推進部会で報告。以降、各都道府県・市町村・地域における国土管理構想の策定状況や取り組み状況、国土利用計画の改定状況などを踏まえ、必要に応じて改定し、新たな国土形成計画に役立てていく予定となっている。

【代 源太朗】

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