2024年05月06日( 月 )

自動車産業の台風の目、配車サービス会社(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 米国の配車サービス会社であるUber(ウーバー)の1日あたり搭乗件数が、2017年にニューヨークのタクシーの搭乗件数を初めて上回った。ウーバーの売上高は16年の38億ドルから19年には4倍の142億ドルに成長している。
 コロナ禍で外出規制などの影響を大きく受けた配車サービス業界は、利用者数が減少するなどの苦戦を強いられているが、同市場は世界で躍進を続けており、とくに発展途上国では、その成長に目を見張るものがある。今回は配車サービス市場の動向を探るとともに、同市場の自動車産業への影響を取り上げてみよう。

配車サービスの中国トップ企業、滴滴出行

 配車サービスは米国でスタートしたビジネスであるが、同ビジネスが最も浸透している国は中国である。中国で配車サービスが人気を博している背景には、中国政府の自動車購買に対する規制が影響している。既存の内燃機関の自動車の購入を規制する一方で、中国政府が力を入れている電気自動車の供給は市場の需要に追い付いていないため、実用的な中国人は便利で手ごろな配車サービスを日常的に利用するようになった。

 配車サービスの中国トップ企業は、滴滴出行(Didi Chuxing)であり、世界最大手の配車サービス会社でもある。滴滴出行の月間アクティブユーザー数は6億名、1日の利用件数は3,000万件を上回っている。月平均利用者数は5,439万名、市場シェアは88.71%である。今年第1四半期の売上高は421億6,300万人民元(約7,173億円)であり、 売上高の92.9%は中国で発生している。

 滴滴出行は6月30日にニューヨーク証券取引所(NYSE)にも上場し、注目を集めた。スマホだけで利用できる便利な配車サービスは、車がまだ普及していない発展途上国でもスマホの普及とともに急速に普及している。発展途上国では経済の発展とともに自動車の普及が進み、自動車会社はそのような発展途上国で市場の拡大を狙うことになるが、現実には新車の販売は思うほど伸びず、その代わりに配車サービス市場が急激に伸びている。

配車サービス イメージ 配車サービスは米国のウーバー、中国の滴滴出行、インドのOla、東南アジアのグラブ(Grab)などがすでに有名である。グラブは2012年にマレーシアに設立された配車サービス企業である。その後、フィリピン、タイ、ベトナム、インドネシア、シンガポールなど東南アジア8カ国、200以上の都市で出前サービスを始め、今では金融、決済、ショッピングなどを展開する企業に成長している。グラブもニューヨーク証券取引所への上場を目指している。筆者もシンガポール、ベトナムなどに出張するときは、グラブのサービスを愛用している。

自動車産業の台風の目

 今まで自動車産業をリードしてきたのは、完成車メーカーである。世界には数社の大規模な自動車メーカーが存在し、世界市場でしのぎを削っている。これらの企業は数十年間の蓄積された技術力などを背景にして、他社の参入を許さない。ところが、自動車は所有から利用にそのコンセプトが変わりつつあり、この自動車業界に大きな変化が訪れようとしている。電気自動車へのシフト、自律走行車や配車サービスの出現などによるものだ。

 そのような状況下で、配車サービスを展開していた会社が、モビリティ社会での存在感を高めつつ、顧客が利用する自動車を自ら製造しようとする動きまで出ている。既存の自動車会社との大きな違いの1つは、配車サービス会社は顧客の車両利用についての細かなデータをもっている点だ。どの顧客がどれくらい頻度で、どの車両を、どこからどこまで利用しているのかという詳細データを確保している。

 もちろん逆の動きもあって、自動車メーカーも配車サービスに投資したり、配車サービスのビジネスへの参画を計画している。しかし、ビジネスの性格があまり違うため、自動車会社と言っても成功するという保証はどこにもない。配車サービスは今後どのような展開を見せ、どのように自動車業界に影響を与えていくのだろうか。

(了)

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