2024年04月25日( 木 )

藤井聡座長に聞く、我が国の国土強靭化はどれだけ進んだのか?(後)

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ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会 座長 藤井 聡 氏

ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会 座長 藤井 聡 氏

 内閣官房は2013年、「強くてしなやかな国」をつくるための「レジリエンス(強靭化)」に関する総合的な施策推進の在り方について意見聴取する場として、内閣官房ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会を設置している。懇談会では毎年、国土強靭化推進に関するアクションプランや年次計画を取りまとめており、現在2021年版の年次計画の取りまとめが行われている。防災・減災という視点から見た我が国の国土強靭化は、どれだけ進んだのか。いまだ残されている課題にはどのようなものがあるのかなどをについて、懇談会設置以来、座長を務めている藤井聡・京都大学教授に聞いた。

新幹線の早期整備を急げ

 ――年次計画2021冒頭に、「国土強靭化は加速化・深化する段階に入った」との文言がありますが、加速化・深化に資する取り組みとして、先生のほうでとくに期待している取り組みはありますか。

 藤井 いうまでもなく、「分散型の国土の形成」です。そのために最も効果的なのは、全国の高速道路のミッシングリンクの整備に加えて、全国の新幹線整備計画の抜本的加速です。具体的には、北陸新幹線の早期大阪接続、北海道新幹線の早期札幌接続、西九州新幹線(長崎新幹線)の早期全線整備。そして、大阪と関空をつなぐ関空新幹線を四国新幹線の一部としての早期整備、岡山から高松、愛媛につながる四国新幹線の早期整備、山形新幹線のフル規格の早期整備、白眉新幹線の早期整備などがいずれも必要不可欠です。また、地方鉄道の在来線の維持も重要です。北海道がその典型ですが、国費の投入が鉄道網の維持活性化にとって不可欠です。

 今のままでは、中央リニア新幹線だけが早期に整備され、その結果、三大都市圏への一極集中がさらに加速するだけに終わることが火を見るより明らかであり、以上に述べた全国の新幹線整備が必要不可欠です。そして、それを実現するためには、国費における鉄道整備予算1,000億円という枠を抜本的に拡大し、年間数千億、1兆円規模にすることが必要だと考えます。費用便益分析やストック効果、分散化効果を考えれば、極めて合理的な判断となると考えます。

全国の新幹線鉄道網の現状(国土交通省資料より)
全国の新幹線鉄道網の現状(国土交通省資料より)

首都圏での洪水、地震に備えよ

 ――先生が座長を務める事前防災・複合災害WGの提言を見ると、スーパー台風による高潮対策、首都直下型地震への備えとして、とくに首都圏での事前防災について重点的に記述されていると感じたのですが、やはり首都圏には、それだけ大きな災害リスクが潜在しているということなのでしょうか。

 藤井 おっしゃる通りです。首都圏には日本経済の3割が集中しており、そこでの大洪水、大地震は極めて深刻な被害をもたらします。たとえば、土木学会は、政府想定の荒川決壊でフロー被害、ストック被害合わせて、62兆円に上るとの試算を公表しています。利根川決壊は、それと同程度の被害が生ずることが予期されます。同じく、東京湾の巨大高潮の試算値は110兆円です。

 そして重要なことに、超大型の台風が首都圏を直撃すれば、荒川が決壊し、利根川が決壊し、そして、巨大高潮被害が東京湾沿岸域に襲いかかるという事態が、すべて「同時」に起こり得るという点です。そうなれば、わずか一日、台風1つ首都圏に上陸するだけで、200兆円を超える凄まじい被害が生ずることが、科学技術的に危惧されているのです。

 事実、2年前の台風19号の折りには、荒川も利根川も危険水域を超過していましたし、東京湾高潮の発生リスクも直前まで危惧されていました。従ってあのとき、あの台風の侵入経路と上陸時刻、そしてその速度、さらにはもちろん、その規模がもう少しずつだけでも変わっていれば、利根川・荒川決壊と東京湾巨大高潮がトリプルで同時発生し、200兆円超の、東日本大震災を遙かに上回る被害が生じていたことも十二分にあり得たのです。

 こうした危機感をもてば、防潮堤対策、堤防対策、そして何より、抜本的な強靱化対策であるスーパー堤防対策を進めていくことが重要です。それと同時に、先に指摘した分散型形成とデフレ脱却を目指していくことが必要不可欠です。

公助基本も、できる限り自助共助を

 ――先生はジャパン・レジリエンス・アワードの審査委員長も務めていますが、アワード2021を振り返っての講評をお願いします。

 藤井 全国民がコロナ対策で疲弊しているなかでも、着々と強靱化の取り組みが進められていることは大変心強いですね。こうした自発的な強靱化の取り組みを、中央政府がしっかりと後押ししていかねばならないと改めて感じました。

 ――座長として、国民に向けたメッセージがあれば。

 藤井 国土強靱化の取り組みは、菅総理もおっしゃる「自助、共助、公助」がすべての基本です。そのなかでも最も効果的な取り組みは、いうまでもなく公助であり、政府としてでき得る最善を尽くして、公助のレベル向上を加速し続けていくことが必須です。

 ですが、完璧な公助はどこまでいっても不可能である以上、国民の皆さんの自助、共助がどうしても必要となります。とりわけ、政府が政府としての責任を十分に果たさない状況下では、否が応でも自助、共助で、自分自身で、自分自身をそして自分たちの身を守っていかねばなりません。きたるべく国難級の大災害を乗り越えるためにも、ご自身で、そしてご自身たちででき得る自助と共助の取り組みを、何卒よろしくお願いいたします。

ジャパン・レジリエンス・アワード2021(強靭化大賞)の主な受賞者

<グランプリ>
和歌山県「和歌山県防災ナビ」

<金賞>
一条工務店「耐水害住宅」(企業・産業部門)
関西大学近藤誠司研究室「インクルーシブ防災の輪、防災福祉ラジオ」(教育機関部門)
(一社)熊本支援チーム「コロナ禍における「新しい災害支援」(NPO・市民活動部門)
ほか

グランプリを受賞した和歌山県「防災ナビ」(懇談会資料より)
グランプリを受賞した和歌山県「防災ナビ」(懇談会資料より)

 

(了)

【フリーランスライター・大石 恭正】

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