2024年04月30日( 火 )

仲盛氏が大分県を提訴、県内高層マンションの調査求める(後)

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 構造設計一級建築士の仲盛昭二氏が大分県を相手取って起こした訴訟について、引き続き原告の仲盛氏に話を聞いた。

 ――アメリカでは、築30 年のマンションが地震も発生していないのに突然崩壊するという衝撃的な事故がありました。

 仲盛昭二氏(以下、仲盛) アメリカ・フロリダ州のマンション崩壊には、私も衝撃を受けました。アメリカの建築基準は州や都市がそれぞれ定めており、フロリダ州の基準がどうなのかはわかりませんが、少なくとも、地震やハリケーンもない平常時にマンションが崩壊することは驚き以外の何物でもありません。

 「ラ・ポート別府」は、マンション全体で1,188 本も鉄筋が不足しており、1 階柱脚の耐震強度が60%も不足しているのですから、地震が発生すれば大きな被害が発生することは間違いありません。

 大分県知事や建築関係部署の職員も、アメリカのマンション崩壊の映像を見ているはずです。あの映像を見た人が、「ラ・ポート別府」の耐震強度不足や鉄筋不足を「確認済証が交付されているから適法」「安全性に問題はない」と言い切れるでしょうか。

 私は区分所有者の1人であるがゆえに、「ラ・ポート別府」の実状を大分県に伝えてきたのです。建築確認で重大な設計ミスを見逃していた事実を指摘した区分所有者に対し、不誠実な回答を繰り返した挙句に無視するという行為は、行政としてあるまじき行為です。建築確認における審査ミスはミスとして認め、区分所有者や周辺住民のために現状をどう是正するかを考えることが行政の役目ではないでしょうか。

 ――「ラ・ポート別府」の仲盛さんが所有している部屋は競売にかけられていますが、競売は不調のようですね。

 仲盛 私が所有している部屋は、ある事情から競売にかけられています。しかし、「ラ・ポート別府」の耐震強度不足と建築基準法違反が明るみになったので、競売の入札者がいません。1回目の競売の基準価格は1,500 万円でしたが不調に終わり、2回目は基準価格が750 万円まで下がりましたが入札者はなく、3回目は基準価格が570 万円まで下がっています。

 この部屋は新築時に6,500 万円で分譲された温泉付き高級マンションです。中古では3,800万円で売りに出されていましたが、耐震強度不足と建築基準法違反が判明したために570 万円でも売れないのです。逆にいえば、570万円の価値もないのに6,500 万円の価値があるかのように設計が偽装されたマンションについて、大分県が建築確認済証を交付することにより、詐欺行為を追認したわけです。

 大分県がろくにチェックもせずに建築確認済証を交付したため、「ラ・ポート別府」のような悲劇が起きているのです。

 ――大分県がマンションの安全性を検討しないのは、なぜでしょうか。

 仲盛 大分県が検討も調査もしないことは行政の責任放棄です。大分県が建築確認の際に見落としたことを認めたくないからです。私が指摘している点の検討は10 分もあれば確認できます。それにもかかわらず、何ら調査も検討もしないのであれば、「建築確認済証が交付されている建物に、地震により損壊が発生した場合には大分県が弁償する」と建物所有者に約束するべきです。

 司法も行政も、法律に基づいて業務を遂行しなければなりません。裁判は法律に基づいて判決を言い渡します。特定行政庁の業務である建築確認では申請された計画が適法と確認した場合、確認済証を交付しなければならないと、建築基準法第6条に定められています。

 計画が法律に適合していない、つまり安全を確認できない場合には、計画の補正が求められ、適法な状態に修正されたことを確認した後、建築確認済証が交付されます。このため、「ラ・ポート別府」について大分県は「当時、建築確認済証が交付されているから適法」と回答したのだと思います。

 しかし、私が指摘したように耐震強度不足や鉄筋不足が明らかなわけですから、大分県は「何を根拠に建築確認済証を交付したのか」について、法的根拠と工学的根拠をもって説明すべきです。私は「ラ・ポート別府」の区分所有者ですから、その説明を聞く権利があります。

原告・仲盛氏の「甲2 号証技術意見書」
原告・仲盛氏の「甲2 号証技術意見書」
※クリックで全文表示(PDF)

 大分県では別府湾を震源とした地震が発生した場合の震度予想を公開しており、「ラ・ポート別府」付近は震度7と想定されています。大分県は、「別府湾を震源とした大地震発生の可能性がある」と注意喚起する一方で、「地震により倒壊の恐れがあるマンションについて検討してほしい」、「県内のSRC造建築物の調査を実施してほしい」という私の意見は無視しています。

 大分県がそうした矛盾した言動を行うのは、行政としての責任感も当事者意識もないからです。本気で地震に対して備えるという認識をもたず、「別府湾の地震による震度分布」といった資料を事務的に公開しているだけなのです。

 ――大分県が県民に向けて地震に対する注意喚起を行いながら、仲盛さんの指摘を無視するというのは理解に苦しみます。

 仲盛 大分県が公開している「別府湾の地震による震度分布」は科学的根拠に基づいているはずなので、地震発生の確率は高いわけです。大分県は県民の安全・安心を確保するため、大分県内のSRC造の建物を対象に、私が指摘している事項に該当していないかどうかについて速やかに調査すべきです。

別府湾の地震による震度分布

 私が大分県を訴えた裁判はこれから審理が開始されますが、大分県が県民の安全を考えているのであれば、裁判の進行を待たず、1日でも早く調査を開始すべきです。そうなれば、私の行動にも意味があったといえます。

 公務員が業務上犯したミスの責任は問われないことがほとんどです。これは、公務員のミスの責任を問えば収拾がつかなくなり社会秩序を乱すことになるので、法的に守られているのです。私は大分県職員の責任を追求しているのではありません。違法な設計により耐震強度が不足したマンションの実状が発覚し、その是正と調査を求めているのです。

 民法上の不法行為であれば20 年の時効がありますが、行政の業務には時効は関係ありません。違法建築物にも時効は関係なく、適法に是正されるべきです。大分県が裁判の進行に関係なく早急に調査を開始しないのであれば、私は裁判で徹底的に争う決意です。

(了)

【聞き手・文:桑野 健介】

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