2024年03月29日( 金 )

小売こぼれ話(7)3分の1ルール(前)

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賞味期限が3分の1になれば売り場から除去

割引シール イメージ 加工食品の販売に「3分の1ルール」という慣習がある。より一層の安心・安全をお客にアピールするために、店舗への納品は製造日から賞味期限の3分の1以内とし、その商品の賞味期限の残りが表示の3分の1になると売り場から外すという売り方だ。期限を過ぎた商品は売り場から外され、卸に返品、卸はメーカーに返すというのが一般的な処理方法となる。

 小売業者の優越的地位の乱用にも抵触するような慣習だが、メーカーも自社商品の信頼性にかかわる問題であり、1990年代に大手小売企業で始まったこの不思議な慣習は現在も続いている。加工食品の賞味期限はそれなりに検査機関で決定されるが、公的な基準があるわけではない。そんな賞味期限が、食品ロス削減という大義名分の下で伸びるのだという。極めて不思議な基準とルールであると言える。

 「半額で売ってもまだ儲かるんかぁ…」。生鮮食品の売り場で、ため息まじりのお客の声を耳にしたことがある。その目の先には、半額シールが貼られた牛肉パックがあった。

 一般のお客には商品の原価はわからない。店が原価を割って売るはずがないという思い込みがあるため、たとえ半額でもいくらかの利益が出るのだろうと考えるのは当たり前だ。しかし、実際には、普通の小売業で当初の価格の半額で売って利益が出ることはない。

 スーパーマーケットの生鮮食品の値入率はせいぜい30%前後だから、3割引で原価を割る。たとえば生鮮の平均の利益率が30%なら、70%が原価だ。それを半額にすれば20%の逆ザヤになる。

 一般の加工食品のように販売期間が長く、ロスが出にくい商品と違って、生鮮食品は売れ残るリスクが高い。たとえば30%の値入で全体の9割の商品が売れたとしても、残りの1割を半額で売れば商品全体の利益率は27%になる。この3%は優良企業の経常利益率と同じだ。しかし、全体の9割の商品が当初価格で売れることは少ない。だからといって値入率を高くすれば、競合店に客をとられてしまう。

難しい商品のボリュームの維持

 売り場からあふれるくらいの商品量は、鮮度感とお客の買う気をそそる。しかし、時間とともに商品量は少なくなる。たとえ24時間営業の店舗でも、時間帯で客数も売れる数も大きく違うから、常に売り場をフルボリュームにしておくわけにはいかない。かといってゼロにはできないから、生鮮売り場と値下げは切っても切れない関係になる。

 鮮魚や総菜などの生鮮食品は時間とともに鮮度が低下する。商品の鮮度だけでなく、売り場の量感(ボリューム)がなくなれば、それも一種の鮮度低下だ。

 仕事に疲れて夕方のピークタイムを過ぎたスーパーマーケットに駆け込んだ仕事帰りの主婦が、値下げした商品が乱雑に置かれた総菜や鮮魚、精肉の売り場を目にして感じるのは惨めさだけだ。疲れが倍増してしまう。だからといって、閉店間際まで豊富な商品量を維持すれば、そのまま廃棄というロスを生む。この兼ね合いが難しい。

 スーパーマーケットはもともと狭い商圏を対象とした業種だ。加工食品や冷凍食品が中心で生の魚を食べないアメリカでは、1週間分まとめて買うというライフスタイルもあるが、我が国の場合は数日に1回の買い物が普通である。だから、家から近いことが一番の条件になる。よほどの理由がない限り、近くの店を通り越して遠い店に行くことはない。

 それだけに、人口密度の高い好立地には多くの店が出店する。競争が激しいから、高い利益率を確保するのは難しい。だから、なるべくロスを出さないようにする。そうした事情から、夕方のピークを過ぎると、お客が買いたくない売り場、買えない売り場が出来上がる。

(つづく)

【神戸 彲】

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