2024年03月29日( 金 )

自民党総裁選、新総理の内政・外交にどのような変化が想定されるか?(前)

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国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

 日本を取り巻く内外情勢が厳しさを増すなか、9月17日告示、29日投開票の自民党総裁選挙は実質3人の候補者で争われることになった。自民党が衆議院の過半数を押さえていることから、自民党総裁が自動的に次期総理に就く。第100代目となる新総理の座を射止めるのは誰だろうか。また、新たな体制の下で、日本はコロナ禍を乗り越え、経済発展を取り戻すことができるだろうか。

岸田氏、官僚にとっては扱いやすい相手

自民党 イメージ アメリカも中国も3人の動静に関心を寄せている。とくにアメリカの場合は、国務省に限らず、国防総省やCIAなどの諜報機関が3人の政治信条や人脈に関する分析を進めてきた。たとえば、米海軍情報部では在日米軍基地の通信傍受機能を生かし、日本の政治家の行動や発言を徹底的にフォローし、彼らの強みと弱みの把握に努めている。アメリカ生活の長かった政治家や官僚については膨大なファイルが整っており、必要に応じて「対日圧力」の武器になる。

 さて、岸田文雄前政調会長(64歳)、高市早苗元総務大臣(60歳)、河野太郎ワクチン担当大臣(58歳)の3者による争いが展開されているが、残念ながら、この顔ぶれでは「影のキングメーカー」と目される安倍晋三元総理(66歳)の「言いなり、忖度総理」になるだろう。

 いずれの場合も、自民党という狭い世界の価値観や利権構造にどっぷりとつかっており、国民の置かれている危機的状況や、そこを突いて日本の資産を食い物にしようと虎視眈々と狙いを定めている海外勢力の動きにまったく関心をもっていない。

 岸田氏は出馬宣言の直後には、「桜を見る会」や「森友学園」をめぐる安倍元総理の関与について再捜査の必要性に言及していたが、怒った安倍元総理からの電話を受けると、前言を翻し、「捜査の必要はない」と立場を変えてしまった。

 加えて、選択的夫婦別姓制度の実現を目指す議員連盟に所属していたにもかかわらず、総裁選への出馬を表明するやいなや、安倍元総理に忖度してか、「この件は引き続き議論する必要がある」と後ろ向きの発言になってしまった。要は主義主張に一貫性がないわけで、国家の最高指導者としては致命的だろう。

 かつては外務大臣を務め、中国との関係を重視し、親中派を自称していたが、アメリカ政府が対中強硬姿勢を鮮明にすると、たちまち「台湾重視」路線に転換する変わり身の早さも見せている。人柄は穏やかであるが、基本的には役所の方針に従うという安全運転派である。自らの政治信念を掲げて敵中突破を試みるような気概はない。逆にいえば、官僚組織からすれば、扱いやすいのが岸田総理ということになる。

高市氏、偏った思想信条の持ち主

 高市氏は根っからの安倍追随者であり、「安倍ガールズ」を自任し、「アベノミクス」を継承する「サナエノミクス」で経済を立て直すとの姿勢をアピールするばかりである。しかも、年初から「安倍元総理と2人で政策の研究を重ねてきた」と内輪話を暴露し、いまだに人気の高い安倍元総理のお墨付きを得て、ようやく推薦人20人の確保にめどがついたに過ぎない。

 とはいえ、もともとは森喜朗元総理の後ろ盾を自慢していた。東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会会長を辞することになった「女性の出席する会議は長い」という舌禍事件があったが、高市候補のことが念頭にあったのではないかと噂されたほど。実は、高市候補の話が長いことは永田町では有名である。

 その長演説が持ち味の彼女であるが、事あるごとに「靖国神社参拝を継続する」と断言し、防衛省を「国防省」に衣替えし、「防衛予算をGDPの2%程度に増やす」、そして「中国への技術情報の漏洩を防ぐ新法が必要」とも主張しており、日本会議など保守系団体やネット右翼の間では拍手喝采を浴びている。また、一部からは「日本初の女性総理の可能性」を指摘されているが、ヒトラーを礼賛する本に推薦文を寄せるなど、あまりに偏った思想信条の持ち主であり、広範な支持を得ることは難しいと思われる。

河野氏、安倍元総理への忖度姿勢を鮮明化

 しかし、いまだ隠然たる影響力を残す安倍元総理の全面的な支援を受けているとなると、番狂わせ的な展開から「女性初の総理」誕生というアメリカの先を行くシナリオが現実化する可能性もゼロではないだろう。ワシントンの連邦議会での研修中から、高市候補はアメリカの女性議員との間で親交を深めていた。アメリカ議会には彼女の飛躍を後押しする女性議員が複数いる。

 他方、河野氏は歯に衣着せぬ物言いで国民的人気が高かったが、総理という目の前の可能性を意識してか、持ち前の発言力や発信力に陰りが見られる。一時は「リトル・トランプ」と呼ばれ、「自民党を変える」と大言壮語したが、所属する麻生派という派閥の枠に縛られ、言動に切れ味が感じられなくなってしまった。かつては「脱原発」「女系天皇容認」「派閥無用」などの大胆な新機軸を相次いで打ち出していたが、総裁選出馬を機にすべてを封印してしまった。

 さらには、安倍元総理の下を訪ね、「ご懸念にはおよびません」と恭順の姿勢を見せるありさまである。当然ながら、安倍元総理が絡む「森友学園事件」についても「再調査の必要はない」との発言により、安倍氏への忖度姿勢を鮮明にしている。このように状況に応じて平気で発言を変えるようでは、党内からも国民からも信用は得られない。

 危機感を感じたせいか、父親の河野洋平元自民党総裁は、懇意にする「参議院のドン」の異名をとった青木幹雄元参議院会長を訪ねては息子への支持拡大をお願いしている。この期におよんで、父親からも心配されるようでは先々どうなることかと慮(おもんぱか)られる。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

(後)

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