2024年04月24日( 水 )

コロナ禍から離陸しない日本とダイナミックな経済回復を遂げた米国(中)

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画家・造形作家 佐藤 雅子 氏

 2021年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率5.1%減となり、実質GDPは年率換算で534.3兆円とコロナ感染拡大前である20年1~3月期の544.3兆円に届かない。一方、米国は実質GDPが同6.4%増と経済が急回復し、ほぼコロナ前の水準まで戻っている。コロナ禍から離陸しない日本とダイナミックな経済回復を遂げた米国の違いは、どこにあるのか。ニューヨークに在住し、米国を見つめ続けてきた画家・造形作家の佐藤雅子氏に聞いた。

ニューヨークの街
ニューヨークの街

圧倒的な資金注入で景気回復を後押し

佐藤雅子氏の立体作品「Yemanja」
佐藤雅子氏の立体作品「Yemanja」
佐藤氏作品 NADESHIKO
佐藤氏作品「NADESHIKO」

 米国政府による圧倒的な資金注入も、景気回復を後押ししたと言われている。バイデン大統領が、トランプ政権の移民政策であったメキシコ国境沿いの壁の建設を中止したことによって生じた資金などを、国民、州、ビジネス、学校、建設業などに幅広く景気刺激策として資金注入したものが行き渡った。国民への3回の現金給付(最大計3,200ドル)も個人消費の増加につながった。ワクチン接種後は企業が経済活動をフィジカルに再開しつつ、失業率も5.8%(5月時点)に改善している。

佐藤氏作品 KIRAMEKI
佐藤氏作品「KIRAMEKI」

 コロナ禍のロックダウンにより、ニューヨーク北部のキャッツキルやロングアイランド別荘地の住宅需要が増加してマンハッタンが一時は著しく空洞化したが、ビジネス再開にともない、昨年11月ごろからマンハッタンに人々が戻りつつあるという。

 米国では、今年1月のトランプ支持者による国議会議事堂襲撃事件以来、民主党のバイデン大統領への期待が作用して、大統領の決定事項が国会でもほぼ承認され、政府全体が動いたようだ。「ニューヨーク経済が急速に再開できたのは、クオモ州知事が強いリーダーシップを発揮して徹底した感染対策を行ったためでもありますが、ワクチン接種効果が何よりも大きく、バイデン大統領が就任後に掲げた『100⽇間で1億回接種計画』は59⽇間で達成されました。このリーダーシップはすばらしく、ワクチン接種への莫大な資金投入を含めた国民への啓蒙活動の戦略が実を結んだと聞いています」(佐藤氏)。

 日本では、何かを進めるときに政府関係者の承認が都度必要であり、責任の所在がはっきりしないと言われている。しかし誰かが責任を取り、明確な方針を示して大胆に対策しなければ「国家」が機能せず、国民が犠牲になってしまうこともある。政府は、デマなどに惑わされないよう国民のためのわかりやすいガイドラインを設定して、米国のように多方面からの情報を積極的に共有すればよいのではないだろうか。

徹底したマニュアル順守が裏目に出た日本

佐藤氏作品「Rebirth and Hope」
佐藤氏作品「Rebirth and Hope」

 日本では「マニュアル順守」の徹底も、コロナ対応の遅れの原因となった。ワクチン接種は65歳以上を優先するルールが徹底された結果、ワクチンが余っても64歳以下の人に打つことができず破棄する事態となった自治体もあった。一方、米国では、優先接種とされる医療従事者用のワクチンが余った場合には、臨機応変に判断して医療従事者以外にも打っていた。平時は決まりを守ることが日本人の美徳であるが、非常事態時には現場で柔軟に判断して対応できる体制をつくるべきだろう。また米国では、PCR検査をどの薬局でも無料で受けられるため、コロナ陰性を確認して実家や親戚の家の訪問などができたことも経済再開の一助となっている。

 また、日本では飲食店に対する支援も高齢者向けワクチン接種のように、手続きの複雑さが普及の妨げとなった。米国では、景気刺激金は世帯全員分のデビットカードや小切手を送付、高齢者接種では運転免許証のみで対応するなどシステムを簡略化したため、スムーズに実施できたという。

(つづく)


<プロフィール>
佐藤 雅子
(さとう・まさこ)
佐藤 雅子 氏 2014年の香港Asia Fine Art Galleryの「New Year Exhibition」をきっかけに画家/造形作家として活動を開始。ニューヨークへ移住後、さまざまな展示会の審査に合格し、賞を受賞しながら活躍の拠点を広げる。なかでも、ニューヨーク・マンハッタン区長オフィスアートショー、The Art Students League of New York の栄誉あるブルードット賞、Bronxville Women’s Club での最優秀賞は新聞、ビデオでも放映された。日本では16年に東京都美術館でのグループ展示会にて入賞。17年には新国立美術館、19年には東京都美術館、20年には代官山や銀座、今年9月には国立新美術館(東京・六本木)で出展した。マニラ、ロンドン、ワシントンDC、カイロ、香港、そしてニューヨークでの生活を通して育まれた感性と知覚を活かし、ユニークな色彩感覚と想像力を使い作品をつくり出している。上智大学新聞学科卒業後、Citibank に入行、その後、画家・造形作家に転身。数々のポスターや商品のデザイン、雑誌の挿絵、港区立白金小学校の図書館の壁画なども手がける。ニューヨークの名門The Art Students League of New Yorkのメンバー、MoMAのアーティストメンバー、上智大学ソフィア会文化芸術グループ、現代造形表現作家フォーラムメンバー。12月に昭和記念公園(東京・立川市)で立体作品の展示を予定している。

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