2021年12月07日( 火 )
by データ・マックス

アメリカに出始めた現実的な対中ビジネス路線への回帰(中)

国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

急進を遂げる中国と停滞する日本

世界情勢 イメージ 視点を変えれば、アメリカに失望した研究者や学生を日本の大学や研究機関で受け入れる手立ても考慮に値すると思われます。人材の交流は危機回避にとって大きな役割をはたすことになるからです。世界はモノの流れからデータの流れにシフトするデジタル時代に入っていることは間違いなく、その最先端で最大規模の実験を繰り返しているのは中国に他なりません。

 たとえば、電気自動車や自動運転に関する実証実験や実用化で日米の先を行くのも中国です。アメリカの電気自動車メーカーの「テスラ」にしても、最大の売上を達成しているのは中国市場においてです。それだけ中国は海外企業に自国マーケットを開放しているともいえます。中国政府は水素技術についても関心を寄せており、米中間のビジネス協議の最大のテーマとして急浮上中です。

 このところ、水素エネルギー開発や水素商業車の研究開発において、米中で取り組もうとする動きも加速しています。とはいえ、この分野は日本が技術的な優位性を保っているため、日本企業が米中とともに「グリーンエコノミー」の牽引車となる可能性も十分にあるはずです。米中間で進む協議の情報にも情報収集のアンテナを高め、独自の対米中技術戦略を構築するチャンスにする必要があります。

 スイスに本拠を構えるシンクタンクのIMDは毎年、世界各国の産業競争力を分析し、ランキングを発表しています。最近では「デジタル競争力ランキング」を公表するようになりました。この分析は「知識」「テクノロジー」「未来への備え」の3要素を基準に世界64カ国を対象に毎年比較研究するものです。

 その最新版に基づき、日本と中国の弱点を見てみると、意外な発見があります。まずは、中国の弱みです。特徴は「国のガバナンスが不十分」という点に尽きます。具体的には「上級管理者の国際経験が乏しい」「対内留学生が少ない」「教育経費の財政支出が限られている」「人口平均ネットユーザーが少ない」「ソフトウェアIPRへの侵害」といった問題点が指摘されていました。

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 他方、日本の弱みは「企業ガバナンスの不十分さ」に集約されています。具体的には「上級管理者の国際経験が乏しい」というわけで、この点は中国と同じです。続いて「デジタル技術のスキルが不足している」「企業としての機会、挑戦への対応力が乏しい」「企業経営がアジャイルになっていない」「ビッグデータの分析、活用が活発ではない」といった課題が指摘されています。

 「アジャイル」とは優先順位の高い機能から実際に動くものをつくり始め、とにかく短期間のうちに一部を完成させ、それを顧客やユーザーに早く見てもらい、フィードバックを受けながらソフトウェアを完成させる手法のことです。変化の激しい現代においては、顧客の好みやニーズも瞬時に変わることも多いため、開発を始めても終わったころにはすでに市場環境が変化しており、顧客の心をつかむことができないケースも出てくるからです。

 要は、中国にも日本にも同様の弱点があると同時に、個別の特徴的な弱みもあるわけです。ということは、相互に補完し合う意味があるということになります。実は、この「デジタル競争力ランキング」の変化を見ると、中国は2017年に31位でしたが、21年には15位に飛躍しています。

 ところが、日本は17年に27位でしたが、21年には28位と後退しているのです。ちなみに、世界NO.1の座は18年以降、アメリカが占めています。急進を遂げる中国と停滞する日本という構図が浮き彫りになっているわけです。日本とすれば、中国との協力、連携を通じて、新たな飛躍に結び付ける可能性も検討すべきではないでしょうか。

デジタル空間という新たな戦場

 ホンダは中国のAI企業と、またトヨタは中国のロボット企業と提携し、ニトリはアリババと、任天堂はテンセントと共同開発事業を進めているのです。これがビジネス現場における日中合作の実態といえます。問題は、政治と安全保障の分野においての相互不信に他なりません。

 連日の報道に見られるように、アメリカ政府は表向き“対中包囲網”の形成に邁進中です。中国にとって、そうしたアメリカの動きをけん制し、無力化する最大の武器は「自主的な開放」と位置づけられています。そのため、「デジタル主権」や「デジタル空間運命共同体」を提唱し始めました。アメリカ主導のデータ安全やデータ主権に対抗しようとの思いが透けて見えるところです。

 その観点から捉えれば、“デジタル空間という新たな戦場”での米中対立が始まったともいえるでしょう。この分野で遅れの見られる日本も早急に対応策を模索せねばなりません。「デジタル庁」が誕生したばかりの日本ですが、どこまで米中の対立構図のなかで独自の戦略を打ち出せるのか、官民挙げての国際協力の基盤づくりへの着手が早急の課題となっているわけです。

(つづく)


浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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