2024年04月24日( 水 )

前途多難なアフガニスタン復興の道:カギは膨大な地下資源

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年10月22日付の記事を紹介する。

アフガニスタン イメージ アフガニスタンにおいてイスラム原理主義を掲げるタリバンはアメリカ軍やNATO軍を追い出したものの、疲弊した国内経済を立て直し、国民に安定した社会を実現するにはハードルが高過ぎるようです。アメリカ軍が実権を握っていた時でさえ、世界最貧国に位置付けられていたわけで、国民の95%は日々の生活費は2ドルという状況でした。国民の30%は常に食料不足という危機的状況に晒されており、状況は悪化の一途をたどっています。これから冬場を迎えるわけで、多くの凍死者や餓死者で出るのではと懸念は高まるばかりです。

 にもかかわらず、かつての統治国アメリカはタリバン政権に対して経済制裁を課しています。アフガンニスタン政府がアメリカの銀行に保有していた95億ドルの資金を凍結させたままです。また、国際通貨基金(IMF)が割り当てている4億6,000万ドルの開発資金も引き出せないようにしてしまいました。さらには、EUはじめ資金援助国や慈善団体からの経済支援にも歯止めがかけられています。

 アフガン政府はタリバンによって転覆させられたわけですが、それ以前も国家予算の75%はこうした国際機関や支援団体からの援助によって賄われていたのです。これらがほぼすべてストップさせられた今、タリバン政権は生存そのものが危うい状態に陥っています。何しろ、テロ集団としてゲリラ戦には長けていますが、国家経済を運営するような経験も人材も皆無です。

 それまで政府が担ってきた国民向けのサービスは機能不全となってしまいました。電気、水道など公共サービスはもとより、教育、医療や交通面においても支障が出ているようです。これまで教育を受けてきた国民や外国との接点のあった人々は次々と国外に脱出しています。日本大使館で働いていたアフガン人やその家族も全員ではありませんが、日本へ難民として避難せざるを得ない状況です。

 要は、頭脳流出が継続しているため、深刻な人材不足に直面しているのが、現在のアフガニスタンです。国境を接する国々からは支援を模索する動きもありますが、地方に行けば行くほど、いまだタリバン政権を認めず抵抗を続ける部族勢力も多く、治安回復からは程遠いため、いずれの隣国も二の足を踏んでいる状況です。

 とはいえ、事態の打開を模索する動きもようやく出てきました。10月15日、ロシアの呼びかけでモスクワにおいてアフガニスタン復興支援会議が開催されたのです。通称、「トロイカ・プラス」会議と呼ばれており、これまでもアメリカ、中国、ロシア、パキスタンの4カ国が中心となりアフガン政策について意見交換を重ねていました。しかし、今回のモスクワ会議にはアメリカは参加を見送ったようです。

 アメリカ国務省のスポークスマン曰く「トロイカ・プラス会議は有意義で、建設的な協議の場であり、我が国は継続的に関与する考えだが、今回は参加できない」。その背景は不明ですが、どうやらアメリカ国務省の内部監査でバイデン政権下で実行されたアフガン撤退作戦にからむ経費の問題がネックになっているようです。米軍がアフガニスタンから撤退した3日後に国務省でアフガニスタン特使を務めていたザルメイ・カリルザード氏が辞任しました。同特使の身辺に何やらきな臭い不正疑惑が発生している模様です。

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 いずれにせよ、アメリカの代表を抜きにして、モスクワでは周辺の10カ国の代表とタリバン政権の代表団が参加して協議が行われたわけです。タリバン政権からはアブドル・ハナフィ副首相が団長格で出席していました。ロシア政府の発表によれば、主な議題はアフガニスタンの政治、軍事的安定をいかに確保するか、そしてタリバン政府が多様な民族部族の代表を包含する方針をいかに実現するか、また経済危機による人道上の問題にいかに対処するか、といった問題に焦点が当てられたとのこと。

 実は、先週にはG20によるアフガン復興支援会議が開かれたのですが、タリバン政権の代表は招かれませんでした。依然としてタリバンへの不信感が根強いことの現れでしょう。アフガニスタンが「テロの温床」にならないとの保証が得られていないというのが最大の懸念材料に他なりません。

 こうした国際社会の懸念を払しょくしない限り、アメリカによる20年におよんだ統治時代に蔓延した不正と汚職まみれの政府の在り方を繰り返すだけになってしまう恐れがあります。というのも、アフガニスタンでは経済困窮が加速しているため、アヘンの栽培が復活し、世界最大のヘロイン工場となりつつあるからです。

 表向き、タリバン政権はアヘンの栽培は認めないとしていますが、現実には麻薬大国への道を再び歩み出しているとの指摘が後を絶ちません。多くの農民も生きるためには仕方がない、といったところでしょう。とはいえ、こうした状況を放置すれば、世界に麻薬汚染が広がることは避けられません。

 現時点では、中国とパキスタンが最も前向きにアフガニスタンの経済復興に資金面で協力する意向を示しています。いずれも、自国内にイスラム過激派集団が影響力を拡大しないようにタリバン政権から保証を得たいとの思いがあるようです。また、アフガニスタンに眠る膨大な地下資源への関心も動機付けになっているに違いありません。

 資源大国に生まれ変わる潜在的な可能性を秘めたアフガニスタンです。歴代の駐日アフガン大使も常にそのことを念頭に日本からの経済技術支援を求めていました。しかし、いまだに資源開発は掛け声倒れのままです。今回、日本が難民として受け入れた日本大使館勤務のアフガニスタン人やその家族の思いや経験を活かし、国際社会の協力の下でアフガンの大地に眠る膨大な地下資源の活用に道筋を付ければ、復興にとっての最大の切り札になるはずです。

 次号「第270回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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