2024年05月20日( 月 )

地方路線バスの危機脱出に向けて~長電バスの事例(中)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

バス停 廃止 イメージ    長野電鉄のバス事業は、経常赤字が増加したことにより、1986年に信濃交通、1992年に信州バス、そして1994年にはバスの車体を専門に整備を行う長電整備の順で分社化された。そして1995年5月29日には、「これ以上バス事業の赤字を、他の事業の利益で内部補助することは困難である」という理由で、長電バスが最後に分社化され、同年10月1日からは長野電鉄より、一般乗合旅客自動車運送事業および一般貸切旅客自動車運送事業を譲受された。

 その結果、1995年には長野電鉄のバス事業は、「長電バス」「信州バス」「信濃交通」「長電整備」の4社に分離された。

 その後、2002年2月に路線バス事業の規制緩和が実施されたこともあり、路線バス事業への新規参入が、従来の「免許制」から「許可制」に緩和された。そうなると利益率が高い高速バス事業や貸切バス事業、観光地を結ぶ路線には、新規参入もあって競争が生じるようになった。

 反面、不採算路線からの休廃止に関しては、従来の「許可制」から「事前届出制」に規制が緩和されたため、不採算路線からの撤退に関しては、地元と協議しなくてもバス事業者の判断で可能となる。

 そうなると地元住民としては、簡単に路線バスが廃止されたのでは、日常生活に支障を来すことにもなるため、可能な限り路線を維持してほしいと考えるのは当然のことである。

 生活路線に関しては、長野県に限らず、一般的に国や県から補助金をもらって路線を維持している状態である。規制緩和が実施されても、生活路線に新規参入がほとんどない代わりに、路線の休廃止が顕在化することになった。

 バス事業の規制緩和の影響もあったと思うが、2006年に長電バスは、「信州バス」「信濃交通」「長電整備」の3社を統合している。

 長電バスからの回答によると「経営効率化」が理由だという。会社を統合して1つにすれば、総務などの分野が統合され、一般管理費の削減が可能となる。また燃料や車両を購入する際、まとめて発注することで、調達コストが削減できるという利点もある。

 筆者は、企業合併による経営効率の追求以外に、過当競争を避けて「交通調整」を図る意味合いもあったように感じている。

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 2020年7月1日には、同グループの飯山観光ハイヤーを合併した。合併後の名称も、従来の「飯山観光ハイヤー」であるが、これは「飯山観光ハイヤー」という名称が、地元で親しまれていたからである。「飯山観光ハイヤー」は、ワゴン車を用いたグループ向けの輸送だけでなく、セダン型車両を用いた通常のタクシー事業も実施している。

 「飯山観光タクシー」になる以前は、長野電鉄のタクシー事業として運営されていた。その後は分離・独立していたが、「飯山観光タクシー」の方から、長電バスにお願いして合併が実現したことが飯山観光タクシーへ電話によるヒアリング調査でわかった。

 長電バスからの回答は、「当社飯山営業所の事務棟を平成30年に新築しました。その際、隣接していたグループ企業の飯山観光ハイヤーも建物が老朽化していたことから同営業所の事務棟に入居し、その後、従業員の効率化を図ることなどを目的に、同ハイヤーを吸収合併しました」とのことであった。「飯山観光タクシー」は、長電バスに合併されたが、社員数などに変化はないという。

 ワゴン車やセダン型の車両があることから、長電バスと連携して、公共交通空白地域の解消を図る方向へ向かって欲しい。

 コロナ禍により、長電バスの貸切バス事業は需要が激減してしまった。需要がほとんどないため、貸切バスとして使用する車両は、車庫で休んでいる状態である。

 稼ぎ頭の高速バス事業も利用者の減少により経営的に非常に苦しい状態にある。これは長電バスに限らず、地方のバス事業者共通の問題である。

 一般の乗合路線も、長野市内であっても、市の中心部から離れた地域では、土日・祝日になると、1日当たり3往復しか、バスが運行されないような状況に陥っている。

 コロナ禍で需要が大幅に減少したとしても、社員を簡単に解雇することができないため、長電バスでは苦境を少しでも脱するため、長電バス関係のグッズを販売している。

 グッズを販売しても、大幅な増収にはなりづらく、かつコロナ禍では急に需要を増やすことは難しい状況であるが、可能なところから取り組まねばならない。

 そこで筆者は、「ピンチはチャンスの仮の姿」と考えを変える必要があると考える。

 地方においては、路線バスの存在すら知らない人も多く、路線バスを利用したことがない子どもも数多くいるはずである。

 最初は、小学校の総合学習の授業を活用して、「バスの乗り方講習」を開催するなど、路線バスの存在と乗り方を、小学生に学んでもらう必要がある。

 次に、長野市郊外や飯山市・中野市などでは、地元の高校生にバス車両のデザインをお願いすることで、路線バスを身近な存在として認識してもらう試みが重要になる。

(つづく)

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