2024年04月27日( 土 )

路線バスの準公営化に向けて(前)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

前橋市内の路線バス6事業者、路線ダイヤを共同で調整

 前橋市内で路線バスを運行するバス事業者6社は、路線バスを維持するため、「前橋市内乗合バス事業共同経営計画」を申請していた。バス事業者がこのような申請を行った背景として、群馬県はモータリゼーションの普及により、典型的なクルマ社会になってしまったことがある。その結果、路線バスの利用者の減少に歯止めがかからず、また少子高齢化の進展、中心市街地の空洞化といった問題に加えて、コロナ禍によってバス事業者の経営体力が大幅に低下している。

 パイが小さくなった地域で、バス事業者同士が競争していたのでは、お互いに経営体力が消耗するだけである。そうであれば、共同経営を行うことで、バス事業者同士がお互いにWin-Winになれるだけでなく、交通調整を行うことで、路線バスの本数が多い地域と脆弱な地域の解消を図れるメリットもある。

 そこで国土交通省は今年9月27日、独占禁止法特例法に基づいて「前橋市内乗合バス事業共同経営計画」の認可を行った旨を発表した。認可されたが、前橋市内の路線ダイヤなどの調整については、韓国のソウル特別市とは異なり、バス事業者6社が共同で行うという。

 前橋市内のなかでもJR前橋駅~表町~本町~日銀前~市役所・合庁前~県庁前を経由する「本町ライン」は、関越交通、群馬バス、群馬中央バス、上信電鉄、永井運輸、日本中央バスの6事業者が11路線のダイヤを共同で調整する。

 これによりJR両毛線の運行ダイヤに合わせて、午前10時~午後4時の間は15分の等間隔の運行ダイヤが実現している。

 午前10~午後4時の時間帯は昼間のオフピーク時であり、利用者が少ない時間帯であるが、15分の等間隔ダイヤが実現したことで、利用者は時刻表がなくても抵抗なく路線バスを利用できるようになったうえ、前橋駅でJR両毛線の電車と接続するため、高崎へ出かける人なども、自家用車から路線バスとJR両毛線へのモーダルシフトが促される。これに関しては、前橋中央駅で上毛電鉄との接続も改善されることで、桐生や赤城方面への利便性も向上したといえる。

 前橋市のように6社もバス事業者が存在し、各事業者がバス停もバラバラに導入していた状態では、利用者にとっても利用しづらかった。そこで6事業者間で、停留所の設定を共通化するようにした。群馬バスがイオンモール線に日銀前バス停を新設する一方、ユーアイホテル前バス停を廃止するなど、バス停の共通化も進めている。

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 共同経営による運行は今年10月1日から段階的に始まっている。これと並行して、地域公共交通活性化・再生法に基づく「地域公共交通利便増進事業」が実施された。JR前橋駅のバス乗り場の再編やICカードの導入など、共同経営と相乗効果を発揮して利便性を向上させる取り組みが行われるようになったが、韓国のソウル特別市の路線バスのように、路線バスを「準公営」とは位置付けていない。

ソウル特別市、路線バスを「準公営」に

復元された清渓川
復元された清渓川

 ソウル特別市で路線バスを「準公営」と位置付け、活性化とサービス改善が実施されるようになったことには、「清渓川の復元事業」が大きく影響している。

 この事業では、後に韓国大統領に就任する李明博氏が、ソウル特別市の市長だった時代に、市内を東西に貫いていた高架道路を撤去して、「清渓川」という河川を復元させる大事業を実施した。

 当時の李市長は新たに道路を建設するのではなく、地下鉄・路線バスなどの公共交通へモーダルシフトさせる施策を実施した。当時のソウル特別市にも地下鉄は9路線も存在していたが、新規に地下鉄を建設するとなれば、莫大な費用と時間を要する。それならば路線バスを改良し、乗りやすくて便利な公共交通に変えることにした。路線バスの「準公営化」は2004年7月から始めた。

 「準公営」と言われても日本にはそのような概念はないが、路線バスの運営を民間の自主的な経営判断に任せる民営制度と、自治体または傘下の公企業が経営する公営制度の長所を合わせた運営システムということができる。つまり、路線バスの運行は民間事業者が担うが、市場調整やインフラなどへの設備投資は公が担うことになる。

 ソウル特別市が、韓国で最初に市内バスシステムの改編のため、「準公営」のシステムを導入したが、それ以前のソウル特別市の路線バスは非常にわかりづらく、使い勝手が悪いだけでなく、バスが多い地域と少ない地域の差が激しかった。また表記がハングル文字しかなく、外国人にとっては非常に使いづらい公共交通であった。

 「準公営化」により、バス路線システムの改編だけでなく、IT技術や統合された乗換割引制度の導入、車両・停留所・バスレーンなど、インフラ部分への投資に対しては「公」が積極的に関わっている。

 準公営化により、バス停にも上屋とベンチが整備されただけでなく、バスロケーションシステムも導入され、次のバスの位置や到着時刻などの情報が得られるようになった。また道路の車線数を減らす代わりに、そこをバス専用レーンとして、バスの輸送力増強と定時運行に努めるようにしている。ソウル特別市のバスレーンは、右左折する自動車の影響を受けにくい、道路の中央部に設置されている。

 ソウル特別市内の路線バスは用途に応じて色分けがなされており、「幹線バス」が青色、「循環バス」が黄色、「広域バス」が赤色、「マウルバス」という支線部分を運行するバスが緑色というように、わかりやすくなっている。

(つづく)

(後)

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