2022年05月24日( 火 )
by データ・マックス

世界一の富豪が始めた人間の脳とAIを一体化させるニュービジネス

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、2021年12月3日付の記事を紹介する。

脳 AI イメージ    2021年初頭、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏を抜き、世界1の大富豪になったイーロン・マスク氏について。彼は「ニューラリンク」と呼ばれる会社を立ち上げ、このところ「脳とAIを合体させる技術開発」に挑んでいます。すでにサルやブタを使った実験では、こうした動物たちの脳に埋め込んだチップを動かし、動物たちがゲームを楽しむ模様を公開して話題を集めました。

 2021年7月末にはグーグルやドバイの投資ファンドから多額の追加研究資金を調達したばかりの「ニューラリンク」です。しかも、iPS細胞の研究でノーベル医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授を口説き落とし、新たな研究の実用化に向けて動き始めたといわれています。

 もちろん、ライバルもいます。たとえば、グーグルの開発した「ディープマインド」は世界初のAGI(人工総体知能)の見取り図に基づいたものです。マスク氏に言わせれば、「彼らはすべてのゲームにおいて人類を1分以内に打ち負かす能力をすでに手に入れているわけで、インターネットにとって最大の脅威に他ならない。もし、AIが意思と目標をもてば、行く手に存在する人間は邪魔者と判断され、その瞬間、人間は排除されるだろう」。

 「ディープマインド」への対抗上、マスク氏は「オープンAI」を立ち上げました。そこではAIの技術を活用し、誰もが本物と信じて疑わないようなフェイクニュースを創作できるといいます。新聞記事、学術論文、文学的な詩でも小説でも、何でもOKとのこと。とはいえ、あまりにも社会的な影響が大きいと思われるため、技術的な詳細は秘密にされています。

 「公開することは危険過ぎる」との判断があるようです。「GPT-2」と呼ばれるシステムが主役となり、思いついた単語や短い文章を入力すれば、あとはAIがインターネットから必要なデータを選び出し、長短自在に原稿を仕上げてくれます。状況に応じて、もっともらしい架空の出典元からデータや引用資料をそろえてくれるという優れモノです。

 現時点でも、インターネットの世界はフェイクニュースで溢れていますが、こうしたスーパー・インテリジェントなAIが活動するようになれば、新薬の効果から始まりクリーンエネルギーの実用化まで、ありとあらゆる分野で都合の良い情報やデータがまかり通ることになるでしょう。

 マスク氏にとっては好都合かも知れませんが、人間にとっては住みにくい世界としか言いようがありません。とはいえ、マスク氏の声が次のように聞こえてきそうです。曰く「フェイクニュースに騙されないようにするには、ニューラリンクのチップがお勧めですよ」。人間が自然な人間であり続けることがますます難しい時代が迫っていることは間違いありません。

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 いずれにせよ、マスク氏同様、ライバルたちも動きを加速させています。たとえば、「フェイスブック」のマーク・ザッカーバーグ社長はワクチン開発に投資するのみならず、世界初のテレパシー・ネットワーク構築を計画し、その実用化に向けて余念がないようです。具体的には脳とコンピューターを結びつける研究を継続しています。

 すでに毎秒100ワードを考えただけでタイプできる縁なし帽を開発したとのこと。というのも、世界では30万人以上が内耳インプラントによって音を電気信号に変換することで聞こえる力を獲得しており、医療面でもさらなる応用が期待できるからです。

 もちろん、マスク氏の「ニューラリンク」に負けないためです。BMI(脳とマシーンの合体)技術で人をオーガニック・コンピュータへ転換させるビジネスの土台が生まれつつあるわけです。この未来ビジネスの分野では熾烈な技術開発競争が始まっています。

 極めつきはマサチューセッツ工科大学(MIT)の開発するコンピューターとのインターフェース「アルターエゴ」でしょう。これは話さなくともコンピューターを操作できるデバイスです。まさに「ウェアラブルの新革命」といえるもの。顎や顔の動きで神経細胞のシグナルを受信し、コンピューターを動かすという画期的なもので、マシーン・ラーニングへの応用も想定されています。

 こうした新たな研究開発の先導役をはたしているのがグーグルのエンジニアリング部門の責任者で、筆者のよく知る未来学者レイ・カッツワイル博士です。彼の発想は人類の歴史を大きく変える可能性を秘めています。なぜなら、自らが「永遠の命を目指す」と宣言しているのみならず、亡くなった父親をアバターとして蘇生させる計画をも推進しているからです。

 その意味では、AIの世界は2029年に大転換期を迎えることになりそうです。というのは、カッツワイル博士の予測では「その年までにコンピューターは人間の知性を超える」と目されているからです。いわゆる「2045年シンギュラリティ論」です。いうまでもなく、世界はその方向を目指し、猛スピードで進み始めており、このプロセスは止まりそうにありません。ましてや人と人との接触を減らすコロナ禍はそうした動きを後押ししていると言っても過言ではないでしょう。

 この種のウェアラブルの国際市場規模は2025年までに700億ドルに拡大すると予測されているほどです。スマートウォッチの市場に限っても、2018年に130億ドルだったものが、2021年には32%増加し180億ドルへ拡大することが確実視されています。スマート歯磨き器、ヘアーブラシも人の行動パターンや利用状況のデータを蓄積することで、利用する人間の健康管理にも役立つようになるはずです。そうなれば、IoT市場は2019年に2,500億ドルだったのですが、2027年までに1兆4,630億ドルへ飛躍的に拡大する可能性を秘めています。

 要は、人間の体も頭脳もウェアラブルやIoTのお蔭で、サイボーグ化することは既定路線になりつつあるわけです。問題は、そうした恩恵を我々がどこまで享受できるのか、ということでしょう。確かに、永遠の命を手にすることは夢のある話ですが、生身の人間にとって、そうした新たなデバイスを受け入れる心と肉体の準備が2045年に間に合うのかどうか。皆さんはどう思いますか?

 次号「第275回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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