2024年04月26日( 金 )

【常勝企業がなぜ負けた(1)】JR東海、リニア中央新幹線工事でトラブル続出(後)

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 東海旅客鉄道(株)(JR東海)で、リニア中央新幹線の工事トラブルが続出しており、2027年とされる東京・品川~名古屋間の開業は一段と厳しくなった。東海道新幹線というドル箱路線を持ち、快走していたJR東海だが、社運を賭けたリニア中央新幹線が「疫病神」に見舞われた。

「政商」として大活躍

 葛西氏は「政商」として大活躍した。安倍政権は、日本の成長戦略として、社会インフラの輸出を打ち出した。その柱が、JR東海の東海道新幹線の輸出である。パッケージ輸出という丸ごとインフラをつくる時から、その後の保守点検までしっかり教えるスタンスが、日本の国益にかなうと安倍首相は考えた。

 葛西氏は、JR東日本と川崎重工業(株)による新幹線技術の中国への輸出を「国を売り渡す行為!」と猛反対した。結果は、葛西氏が正解だった。「親米、反中・韓」というスタンスが、安倍氏の考えと一致することから、重宝された。JR東日本の二の舞を踏まないために、新幹線の輸出は葛西氏の考えに乗ったわけだ。

 葛西氏が「政商」として、手腕を発揮したのは、総事業費9兆円(いまでは10兆円を超える)のリニア中央新幹線だ。JR東海は当初「自己資金で建設する」としていたが、工事が遅れ、資金が足りなくなった。16年6月、安倍政権は3兆円の公的資金の投入を決定した。葛西氏と安倍氏の関係は衆知の事実で、「アベ友優遇」と非難された。

 葛西氏は最後の大仕事であるリニア中央新幹線でつまずいた。工事をめぐり、次々とトラブルが噴出したのである。

コロナ禍で東海道新幹線の客足戻らず

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リニア計画は、なぜ、とん挫しているのか(前)

 JR東海は10月27日、2022年3月期決算の業績予想を下方修正した。最終的なもうけを示す純損益は300億円の赤字(前期は2,015億円の赤字)になる。これまで150億円の黒字を見込んでいたが、コロナ禍で東海道新幹線の業績回復が遅れるという。

 売上高は1兆80億円を予想。前期より22.4%回復するが、コロナ禍前の18年3月期の55.3%にとどまる。21年9月中間決算では、営業損失は341億円の赤字(前年同期は1,135億円の赤字)、純損益は444億円の赤字(同1,135億円)の赤字だった。

 業績回復の遅れに直結しているのが、収入の大半を占める運賃収入だ。当初予想では、21年7~9月期の運賃収入は、コロナ禍前の同期実績の65%を見込んでいた。しかし、コロナ禍が長引き客足の戻りが鈍く、実際は38.3%にとどまった。

 JR東海は、観光・出張収入がほとんどの東海道新幹線一本足打法だ。JR東日本の首都圏、JR西日本の近畿圏のような、通勤・通学の定期券収入という安定収入がない。ドル箱だった東海道新幹線が、コロナ禍によりJR東日本やJR西日本以上の打撃を被った。 

リニア中央新幹線は開業できるのか

リニア中央新幹線 イメージ 労働環境の変化もJR東海には向かい風になった。新型コロナ禍により、出張せずに東京と地方をオンラインでつなぐリモート会議やテレワークなどが急速に普及した。コロナが収束しても、出張が以前の水準に戻るとは考えにくい。移動時間の短縮を図ることが目的の「リニア不要論」さえ出てきている。

 静岡県以外でもリニア反対論が巻き起こるなど、JR東海は向かい風にさらされている。静岡県ではトンネル工事により水が抜けるのは大井川流域市町の死活問題のため、「JR東海は静岡ルートを変更するしか、解決の道はないのではないか」と言われているという。ルートを変更すれば、時間も費用もかかる。

 葛西敬之氏在任中の最大の事績は、リニア中央新幹線を「国家事業」に格上げしたことである。安倍晋三政権(当時)との太いパイプがものいった。

 葛西敬之名誉会長と安倍晋三首相(当時)の共同プロジェクトと陰口を叩かれたリニア中央新幹線は、開業に向けて大きな転機を迎えることになった。そして何よりも難問はリニア中央新幹線が開通できるのかである。

JR東海連結業績推移

(了)

【森村和男】

(中)
【常勝企業がなぜ負けた(2)】

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