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2015年05月13日 07:06

IoT実現を可能にする最後のピースBLE!

上原昭宏&山路達也著「アップル、グーグルが神になる日」(光文社新書)

「これから5年後」の日本IT社会への思い

 パソコンやスマートフォンだけでなく、各種センサー、家電、自動車など身の回りのあらゆるモノがクラウドにつながる「モノのインターネット化(IoT)」(Internet of Things)市場が2014年以降、急速に巨大化し始めた。アマゾンやグーグルという巨大プラットフォーム企業を中心に、一般消費者向けのIoT市場が新たに生まれようとしている。

 本書は、第1章(IoTの最後のピースBLE)~第2章(リアルとネットの融合する世界)~第3章(新たなビジネスの生態系)で構成。iPhone関連の仕事を6年間続けてきたエンジニアである上原氏の目から見た「これから5年後」の日本IT社会への思いを中心に書かれてある。上原氏は1975年生まれ。奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科博士前期課程修了の工学博士。デジタルカメラメーカーでASIC開発、(株)ニデックで人口視覚システム研究開発に従事、現在は、合同会社わふう代表社員、リインフォース・ラボ個人事業主。

IoTの最後のピースとしてBLEが登場した

 機器同士を接続して自律的に動作させるというのは、エンジニアからすればごく自然な発想である。1990年代には、「TRON(トロン)電脳住宅」、2000年代に入ると「ネット家電」、2011年には、ホームオートメーションやスマートホームを謳う「未来の住宅」が話題になった。しかし、いずれのコンセプトも実現には至らなかった。それは、そのビジョンを実現する低コストのハードウェアやクラウド、モバイルネットワークが存在しなかったからである。それが今、技術が成熟し、アップルやグーグルという巨大プラットフォーム企業が登場したことで、当時夢物語だったコンセプトを実際のビジネスにできる環境が整ってきた。その大きな理由の1つがBLE(Bluetooth Low Energy)という新たな通信技術の登場である。

 従来のブルートゥースでも、Wi-Fiと同じく2.4ギガヘルツ(GHz)帯の電波を使用する無線通信規格で、データの転送速度はWi-Fiに比べると低速だが、Wi-Fiに比べると消費電力が大幅に少なかった。しかし、これまで、このブルートゥースの普及が限られた領域に留まった大きな理由は、その仕組みの複雑さにある。機器の種類ごとに「プロファイル」(機器同士がデータをやり取りするための約束事)が詳細に存在した。

「機能」と「振る舞い」を完全に分離した

 ところが、このBLEの登場で、ブルートゥースは全く新しい可能性を手に入れることになる。BLEが前提にしているのは、無数の機器が存在する世界であり、それら機器が発信するデータを必要に応じてスマートフォンやパソコンで受信して利用しようという考えである。BLEの消費電力は従来のブルートゥースに比べると極端に少ない。(使い方によっては、ボタン電池1個で何カ月もデバイスを駆動させることができる)しかし、それ以上に重要なのは、BLEは従来のブルートゥースとは異なり機器の機能を細かく規定していない点である。

 BLEでは、「アプセサリ(Appcessory)」(アプリケーションとアクセサリからなる造語)という概念によって、機器自体の備えている「機能」とアプリによる「振る舞い」を完全に分離している。その結果、個々の機器が備えている様々な機能は開発者が自由に定義できるようになったのである。
 アップルは、2011年のiOS5でコア・ブルートゥースというフレームワークを追加し、BLEのアプセサリ開発を可能にした。アンドロイドは2013年7月の4.3以降、OS自体が標準でBLEに対応するようになった。ウィンドウズも2013年10月の8.1からBLEを正式に対応している。

BLEの応用で今注目されるiビーコン技術

 アップルが開発したBLEをベースにした近距離での位置情報の検出技術「iBeacon」(iビーコン)が今、マーケティングの世界で注目を集めている。従来のアプリでは、何をやるにしても、ユーザーの自発的な行動が必要であった。ところが、iビーコンでは、対応アプリがインストールされたスマートフォンを持ったユーザーがビーコンに近づくと、自動的にロック画面にクーポン券など使える旨の通知が表示され、通知をタップするだけでクーポンが表示されるのである。

 すでに、アメリカのメジャーリーグ(MLB)では、2013年から全米20以上の球場に平均100個程度のビーコンを設置している。日本でも、国立民族学博物館、八景島シーパラダイス等で導入が進んでいる。JR東日本は東京駅構内に160個のビーコンを設置、実証実験をすでに終えた。京都市交通局では、2014年10月から、京都市内を走るバスにビーコンを搭載している。動くバスはもちろん、もっと小さな人やモノ(ペンダント、ステッカー)にも取り付けが可能である。このiビーコンがもたらす変化を上原氏は「ネットからリアルが見えるようになった」と述べている。さらに、ビーコンによって得られる行動データからは、ユーザーが今何に関心を持っているかまでわかり、マーケティング関係者には、垂涎のデータをリアルに得ることができる。

 このBLEの様々な応用技術は、「ホームオートメーション」や「ヘルスデータ管理」などあらゆる分野に適用が可能であり、その準備も進んでいる。

日本のエレクトロニクス産業に対して警鐘

 上原氏は日本のエレクトロニクス産業に対しても警鐘を鳴らしている。それは、アップルやグーグルといった巨大プラットフォーム上でビジネスを行うのが大前提となる近未来のエレクトロニクス業界の中で、ビジネスをハードウェア技術で差別化しようとするのは自殺行為に過ぎないからである。過去に日本企業が、半導体分野で「自分たちはすごい」と自信過剰になり、世の中の大きな変化に気づくことができなかった苦い記憶がよみがえる。

 全体を通じて、専門用語も多く出てくるが、充分に面白く、興味を持って読み進むことができる。近未来5年後の日本IT社会のガイドブックである。

【三好 老師】

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。

 
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