2024年04月26日( 金 )

パーティー問題でイギリスを揺るがすジョンソン首相の命運(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

大ピンチの英・ジョンソン首相

イギリス議会 イメージ    イギリスの政界が揺れています。コロナの感染が拡大するなか、国民には外出や会食の自粛を呼び掛けていながら、首相官邸でしばしば飲食をともなう会合を開いていたことがメディアで暴露されたからです。ジョンソン首相自身も出席していたケースもあったため、野党からは辞任を求める声も上がっています。

 その意味では、ジョンソン首相夫妻にとって、これまでにない大ピンチが訪れたともいえそうです。いわゆる「パーティーゲート」に他なりません。新型コロナウイルスの急拡大でイギリス全土にロックダウン宣言が発せられ、外出はおろか、人と会うこと自体に制限が課されていたにもかかわらず、ジョンソン首相のお膝元である「ダウニング街10」、すなわち首相官邸で頻繁にアルコールをともなうパーティーが開かれていたとなれば、問題視されるのも当然でしょう。

 たとえば、2020年5月15日、この日は夕刻から官邸内のバルコニーや庭園でジョンソン夫妻も参加して30人余りでワインとチーズで「ご苦労さん会」が開かれました。ジョンソン首相曰く「自分がその場にいたのは25分間だけだった。しかも、公務の一環と理解していた」。要は、「コロナ対応で疲労がたまっているスタッフを激励した」というわけです。

 また、2021年4月16日、この日はエリザベス女王の夫エディンバラ公フィリップ殿下の葬儀の前日でもあり、国を挙げて喪に服していたのですが、官邸のスタッフが会食をしながら未明まで大騒ぎに興じたといいます。

 表向きはジョンソン首相の広報部長だったジェームズ・スラック氏の送別会でした。このときには官邸のスタッフが近所のスーパーに買い出しに出かけ、スーツケースいっぱいのワインを調達してきたとのこと。ちなみにスラック氏はその後、大衆紙『ザ・サン』の副編集長になっています。このパーティーにはジョンソン首相夫妻は参加していませんでした。

 しかし、それ以外にもジョンソン首相が関係するクリスマスパーティーやクイズパーティーなどの情報が漏れ聞こえてきたため、「首相の管理監督がずさん過ぎる」との非難が沸き起こったのは事実です。そのため、ジョンソン首相も「これはまずい」と思ったようで、官邸スタッフに指示をし、バッキンガム宮殿にお詫びの電話を入れるなど、釈明に追われていました。

英国民の不満がジョンソン首相へ?

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 普段はジョンソン首相に好意的な『デイリー・エクスプレス』紙も「ボリス、いい加減にしろ!パーティーゲートのような茶番劇に早く幕を降ろせ」と厳しい論陣を展開しています。与党のなかからも「下手をすれば命取りになりかねない」と危惧する声も漏れてきました。

 しかし、当のジョンソン首相夫妻は「これくらいの批判はこれまでも何度も経験してきた」と動じる風はありません。当初は政府が発令したロックダウンへの違反容疑でロンドン市警が捜査を始めるとの観測もありましたが、ジョンソン首相の「自分は何ら法令違反などしていない」との強気の姿勢もあり、また、議会でも下院に相当する庶民院では与党保守党が安定多数を占めていることもあってか、強制的な弾劾決議などには至りそうにありません。

 もちろん、ジョンソン首相との間で2人目となる赤ん坊を生んだばかりのキャリー夫人の激励も大きな支えになっているに違いありません。「私の夫はファイターです」と公言して憚りません。というのも、国内政治に詳しいキャリー夫人は「イギリスでは禁固刑1年以上の判決が下されない限り、大臣や国会議員の職を強制的にはく奪されることはなく、ましてや首相が職を辞するようなことは本人が自発的に辞任しない限りはありえない」ことをわかっているからです。

 そうは言っても、「一寸先は闇」というのが政治の世界。コロナ禍が収まらず、燃料価格を始め物価全体がインフレ傾向にあるため国民の生活が苦しくなる一方であれば、国民の不満がジョンソン首相や保守党にはけ口として向けられるリスクは大きくなるはず。その試金石は2022年5月5日に予定されている地方議会選挙です。もし、ここで保守党が大敗するようなことになれば、与党内からもジョンソン幕引きの嵐が起こることは否定できません。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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