2022年05月28日( 土 )
by データ・マックス

【IR福岡・特別連載71】実現可能性はIR長崎を超える

IR長崎の完成予想図
IR長崎の完成予想図
IR福岡の完成予想図※場所は「海の中道エリア内(540ha)」だが、詳細は未定。3月開業予定のパーク・ツーリズムとは無関係
IR福岡の完成予想図
※場所は「海の中道エリア内(540ha)」だが、詳細は未定。
3月開業予定のパーク・ツーリズムとは無関係
IR福岡では「完全なるアメリカ」を再現する
IR福岡では「完全なるアメリカ」を再現する

 IR(統合型リゾート)福岡が近く表舞台に登場しそうだ。準備作業をほぼ終わらせ、公表のタイミングを待つだけの状況にあり、今後福岡市の具体的なアクションが待たれる。その実現可能性は崩壊寸前にさえ思えるIR長崎よりはるかに高いといえよう。

公表のタイミングを待つだけのIR福岡

 IR福岡の関係者から、水面下で作業中の情報(完成予想図)の一部を入手した。候補地は都心からわずか30分(車、フェリー、JR、西鉄、地下鉄)と市街地に近く、玄界灘と博多湾に挟まれた景勝地「海の中道海浜公園」に隣接した場所であり、その規模やコンセプトも優れた内容となっている。

 提携先企業は米国ラスベガスで創業された老舗ブランドで、世界的知名度を誇り、米国内に多くの拠点をもつ投資開発事業者。彼らも、候補地の利便性とロケーションの良さを高く評価しているという。水面下での作業はすでにほぼ完了しており、あとはコロナ禍の動向をみながら、表に出すタイミングを見計らっているようだ。

 加えて、日本国内での提携先のメジャー企業の確保、事業母体のエクイティ(株主資本)構成計画および資金調達計画などの具体的なプランもほぼ完成している。国際基準のリトルリーグスタジアムや昨年6月に休館となった「パピオアイスアリーナ」に代わる国際規格レギュレーションの新たなスケートリンク、来春福岡市中央区に開業予定のホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡」と同クラスの富裕層向け米国系5つ星ホテルなども併設される。その内容が近く表に出てくるという。

 IR福岡の提携先企業は、経験、規模および手腕の全ての面で、IR長崎のカジノ・オーストリア・インターナショナル(一部政府資本)より上の“プロ集団”であるIR長崎の事業母体(コンソーシアム組織組成)に関してはいまだに核となる組織の情報が表に出ていないことを考えると、実現性は比較にならないほど大きい。このことは【表】を見れば一目瞭然だ。

IR福岡、IR長崎 比較表

非現実的なIR長崎の計画

 見比べると、IR長崎の年間集客計画は異常にさえ思える。IR長崎の後背地人口は九州一の都市圏であるIR福岡よりはるかに少ないにもかかわらず、IR長崎の売上粗利益はIR福岡の2倍が見込まれており、夢のような計画だ。

 IR福岡はIR大阪と同様に、事業計画について都市圏人口を主体として国内市場中心のものとしている。福岡の国際コンベンション誘致実績は大阪市の1.6倍、港別外国航路乗降人員数も全国1位という実績を誇りながらも、IRにおける「海外からのインバウンド数は全集客計画の5%以下」と聞く。今後海外からのインバウンドが増えた場合、それが上乗せされる。福岡のIR計画は現実的なものといえるだろう。

 一方、IR長崎の事業計画については新型コロナウイルス感染症の拡大以前とほぼ同じで、国内外の観光客を中心としたものとなっている。「集客の30%(約240万人)が国外からの集客」となっており、福岡の5%以下とは対照的だ。

 米国ラスベガスでさえ、今回の世界的なコロナ禍で苦境に陥ったのだ。民間企業ならば絶対にこのような計画は立てない。「親方日の丸」の行政機関が政治に忖度して考えたものとしか理解できない。福岡県の人口510万人と比べて、壱岐・対馬・五島列島などを含み人口130万人の長崎県では「年間集客計画840万人」などあり得ない話といえる。

 筆者は、以前から集客計画「年間840万人」は異常だと説明してきた。IR福岡の関係者によると、国内外の著名なアナリストの見方は「ハウステンボスがコロナ禍前に一度達成した年間300万人」が限界というものだ。プロの仕事なら、このように下駄を履かせて積み上げた数値にはならない。

 IR誘致開発が実現した後のカジノ事業収益からの税収についても、両者は大差ない金額を見込んでいる。繰り返すが後背地人口が大きく異なるにもかかわらず、このような数値を計画しているのである。

行政主体では困難なIR誘致開発事業

 従来説明してきたように、IRは「安倍・トランプ密約」によりスタートしたものであり、「米国カジノ企業にしかチャンスはない」と言い続けてきた。政府はまた、ギャンブル依存症への懸念から反対する野党や一部の人などを見据えて、「IR法案」を通すために、各候補地の行政機関に責任をもたせようと、手続きについて管轄区域が政府に誘致を申請するかたちとした経緯がある。

 大阪府・市を除く各候補地の失敗は、この苦肉の策の結果といえる。北海道苫小牧市や横浜市、和歌山県などでは、自治体が撤退したり、訴訟問題に発展したりするなどの事態がみられる。このような問題を避け、IR誘致開発を実現するためには、民間が主体となって自治体に先行する方式しか可能性はない。

IR長崎は事実上の崩壊

 IR長崎は、事業母体(コンソーシアム組織組成)の計画がいまだに出ておらず、それゆえ、3,500億円という巨額の投資資金の「調達計画」も表に出せていない。長崎県は守秘義務を盾にずっと言い逃れをしている。それに対し、IR大阪では米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスが「それぞれ2,700億円のエクイティ負担」を行うと明言している。守秘義務は相手があって成立する契約であり、相手がいないのであれば守秘義務などあるはずもない。

 まもなく実施される長崎県知事選挙(2月3日告示、20日投開票)は、現職の中村法道知事(71)と新人の大石賢吾氏(39)による一騎打ちの様相を呈している。現在、自民党県連が割れて互角の戦いと聞くが、選挙において「IR事業開発の成否」を政治利用すべきではない。

 事実上、実現可能性が低いと思われるIR長崎について、候補者がもし選挙後に申請を辞退するつもりなら、選挙前に説明すべきだ。今説明すると再選が危ないとして事実を隠しているのならば、それは県民への冒涜であり、辞退を「再選後に」と考えているのならば、姑息といえる。

問われる福岡市の対応

 IR福岡が近く、民間企業が先行する形でマスメディアを通して発表する可能性がある。一昨年、昨年とすでに、候補地“海の中道”の住民有志、自治体および福岡青年会議所が、IR事業の誘致促進に関する「上申書」および「3万人の署名」を高島市長に提出済みである。

 福岡市は今後、これらをどう扱うのかを決める必要が出てくる。福岡市は国家戦略特区であり、グローバル化とスタートアップを強く押し出している。また、20年に福岡県および経済界と“TEAM FUKUOKA”を立ち上げ、香港が担っている国際金融機能の誘致を目指して活動している。福岡市への4,800億という莫大な投資と雇用・経済効果を生むIR誘致開発は、これらの成功に向けた近道となるだろう。

 そのためには、高島市長が正式に候補地として手を挙げ、続けて公開入札の手続きを経る必要がある。IR福岡はほかの候補地とは異なり、民間が主体となって先行して準備を行ってきたことから、ほぼ完成した計画を出してくる可能性が高い。

 今年11月には福岡市長選挙が予定されている。この案件の取り扱い方は、高島市長自身の再選にも大きく影響するだろう。なぜなら、コロナ後の経済再生、雇用創出、税収拡大に大きく寄与することが見込まれる案件だからだ。その一方で、「ギャンブル依存症を増やす」という理由から反対派が出てくるだろう。多少の政治的リスクはあるが、高島市長は常々、「若者よ、チャレンジしないことが失敗であり、失敗を恐れずに常にチャレンジすることが一番大切だ」と檄を飛ばしている。今年は市長自身の“有言実行”が問われる年となる。筆者は、忖度だらけの福岡財界も、市民の大多数も大歓迎すると確信している。

 政府から提唱されたものの、実現していない「所得倍増計画」。関係者によると、これまですべての候補地で一切触れられてこなかった「所得」について、IR福岡では直接雇用者の所得を米国の最低賃金と同等の水準(たとえばロサンゼルス市の最低賃金は時給15ドル(約1,700円))にまで引き上げる計画だという。

 これは、いわばIRの管轄行政に収める税金の一部(直接税)をまずは「従業員の所得」に回し、それを「所得税(間接税)」として納めるという、ほかの候補地にはないかたちを考えているということだ。民間が率先して所得増加を実行しなければ、所得倍増は永遠に実現しないという考え方からきているようだ。

【青木 義彦】

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