2024年04月19日( 金 )

音のデルタ地帯 「俺の」吉塚(後)

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脱・昭和を目指せるか

 昨今、ハイテク工場などの多くは、騒音、臭気、トラック往来などとは無縁で、環境に何の負の外部性をもたないものだ。これを旧来型の「工場は危険でうるさい」といった思い込みのままの類型に閉じ込めて、土地利用の柔軟性を損なうのはもったいない。まして新興産業である若い人種たちを、比較的街のはずれに位置する工業地域に押し込めていくのも街の活性化にならない。むしろ街のなかに積極的に織り交ぜていくことが、産業越境の力になりそうだ。かつて福岡市は、工場誘致ができない都市計画の歴史がある。しかし吉塚界隈に現代のハイテク工場などを混ぜていくことができれば、新たな都市構造に変革していくこともできるかもしれない。住居地域と工業地域の滑らかな複合化も、可能性がある。

 今の制度は時代遅れで、社会の実態に合っていない。用途や高さ、日影、容積率、建ぺい率など、いわゆる集団規定と呼ばれている建築基準法の領域は、ほとんどが何m以下とか何%以下といった、大雑把な数値で決められている。容積率にしても、住宅地は100や150%、商業地は200から400%といった相場観で定められていて、数値の根拠はあまり明らかになっていない。客観的資本に基礎をもつ、きめ細やかな基準が必要だと思う。

時間をデザインする
時間をデザインする

 たとえば、固定化した従来の市街地のイメージに対して、動的ゾーニングとでもいうような考え方だ。用途地域を定める場合も“時間とともに変化する”、そういうものを配置計画として適用するなど、「空間と時間をどうデザインするか」といった視点だ。工業の街でも、「用途」などで機械的に立地規制をするのではなく、騒音、臭気、交通危険などの負の外部性のそれぞれの諸要素ごとに基準を設定して、それぞれごとの「性能」を規制や課金でコントロールするほうが、よほど高い水準で環境も安全も守ることができるはずだ。

 現代は「令和4年」だが、同時に「昭和97年」とも言い換えられる。建築基準法は20世紀の真ん中あたりの工業化社会のときにつくられたもので、今の社会に合ってきていない制度だ。それに則って街がつくられるのは、やはりおかしいと思う。この業界の法則はまだ昭和のルールのなかで働いていて、そろそろアップデートが必要な時期に来ているのではないだろうか。「機能転用の自由化」を図り、まちづくりの文脈から“脱・昭和”を呼び起こし、新しい都市構想に舵が取られていくことを願ってやまない。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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