2024年04月20日( 土 )

【独自】糸島市発注工事、「入札不調」多発の謎(後)

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 糸島市発注の「糸島市新庁舎建設工事」を村本建設(株)九州支店が45億8,000万円(税別)で落札した。同工事の総事業費は64億9,000万円。市発足以来、最大規模のプロジェクトであり、市を象徴する新たなランドマークを建設する予定だが、応札者に地場企業の名前はない。目立つのは、落札者の村本建設をはじめとする外様企業の名ばかりだ((前)の表参照)。入札は、市があらかじめ選んだ業者だけで競争入札を行う指名競争入札方式で実施された。市は24社を指名したが、応札したのはわずか4社、1JVのみ。残りの19社は辞退するという異例の事態となった。

自由度の高い予定価格作成

糸島市新庁舎の外観イメージ
糸島市新庁舎 外観イメージ

    糸島市の発注工事が安すぎる件については、市の積算根拠を疑問視する声、福岡市発注工事との価格差を指摘する声などを紹介してきた。市の発注工事は市民が納める税金が原資となるため、費用を抑えようとすること自体を悪と断ずることはできない。しかし、地域の安全・安心な暮らしを支える社会インフラの守り手は、地元の建設業者にほかならない。

 彼らが利益を上げられずに市の仕事を受けない、あるいは利益がとれる仕事を求めて市外へ出ていくということが続けば、最終的にその影響は不便な生活を強いられるかたちで市民に跳ね返ってくる。市内に営業所を置く外様企業もいるが、彼らが地元企業と同じように24時間体制の手厚いフォローをしてくれるとは限らない。水道管の凍結、停電対応、そして災害発生後の復旧工事など、土地勘もあり即応可能なのは、やはり我が事として捉えられる地元の建設業者だ。

 糸島市発注工事で不調件数が最も多いのは土木工事で、関連業者からは「正直赤になる(利益が出ない)現場は少なくない」という声も聞かれた。建設業者が求めているのは、適正価格の実現だ。地域の守り手を地元で育てていくためにも、市には予定価格の見直しが求められる。

 そもそも、公共工事の予定価格はどのように決定されているのか。予定価格については予算決算と会計令第80条の2で、「取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない」と規定されている。

 この規定にはかなり振れ幅があるため、各地方自治体が地域特性などを勘案しながら作成することになる。建築工事を例にとると、まず設計事務所に設計図を依頼し、標準仕様書や単価表などを作成していく。その過程で資材価格や労務単価を決定していくのだが、ここに各地域における標準的な価格帯が反映されることになる。

 ただ、資材価格は取引業者間の関係性や交渉によって変動する。労務単価にしても、腕利きの大工か否かで当然変わってくる。また、おおよその工事費の算出は、工事費概算書を作成する設計事務所によるところが大きく、仮にインターネットで検索して一番安い資材価格が採用されれば、実情と大きくかけ離れた予定価格が出来上がってしまう。

 このように、予定価格には不確定要素が多いため、各地方自治体の意向を組み込みやすいともいえる。

 国土交通省では公共建築工事共通積算基準や品確法を定め、可能な限り標準化を図ろうとしている。とくに品確法は、建設関係団体などから国交省に寄せられた意見を基に改正され、発注者に対して設計書にある金額からの歩切りの撤廃、予定価格の適正な設定などを求めている。

 しかし、現実はまだ努力義務の範囲にとどまっている。国交省は県や市町村に対して状況をヒアリングすることはあっても、改善を求めて指導するまでには至っていない。そのため、予算の制約を理由に、発注者が設計変更を認めないケースが依然として横行している。

 今回、糸島市を取り上げたが、ほかの市町村にも適正価格未満の仕事を余儀なくされている建設業者は多いと推察される。適正価格の実現は、地域の安心・安全な暮らしを支える地元の建設業者が、中長期的に担い手の確保・育成を行っていくためにも必要不可欠だ。持続可能な地域社会の構築のためにも、公共工事は安ければいいという考え方を改める時期にきている。

(了)

【代 源太朗】

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