2024年04月25日( 木 )

『脊振の自然に魅せられて』新雪の脊振山(後)

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 九州自然歩道の山道に入ると雪はさらに5㎝ほど深くなり、雪を踏みしめる筆者の足音がサクサクと聞こえてくる。新雪の山道を奥に進む。新雪を歩くほど贅沢なことはない。ブナの大木の並木も雪を被って青空に映え、澄んだ空気がブナ林の上空を覆っていた。

 100mほどの木道を抜けると、新しく設置された九州自然歩道の道標が雪のなかにりりしく立っていた。道標は佐賀県が数年前にリニューアルし、登山者にわかりやすくなっている。

 佐賀方面から自衛隊基地に続く広い林道を横切り、気象レーダーの作業道路へ入る。気象レーダーのゲートは施錠され、一般車は入れない。完全舗装され、大型車も通れる幅となっている。昨年、路肩も補強され、積雪の深さを確認する紅白のポールも新しくなっていた。

 

生命力溢れるブナの大木
生命力溢れるブナの大木

 道路の両側は山地で、コバノミツバツツジやタンナサワフタギ、ブナなどの原生林が繁茂し、春から秋にかけ自然観察を楽しめる場所でもある。

 自然林のなかに、筆者が“山オヤジ”と名付けた生命感溢れるブナの大木がある。昨年、ここを歩いていると雨上がりのガス(霧)のなかにシルエットとして浮かんでいた。自然がつくり出す光景に感動し、笹藪をかき分けて撮影した。それ以来、このブナの大木に魅力を感じるようになった。

 このブナは幹回りが3m以上あり、根元から1mの高さで何本も大きな枝を伸ばし、千手観音のように堂々と佇んでいる。

 雪を被った藪のなかを15mほど進むとブナの大木に届いた。「会いにきたのか。寒くはないか」と筆者に語りかけてきたかのように思えた。

 ブナの撮影を終え、再び作業道へ戻った。雪を被った50㎝ほどの段差に苦労した。足を伸ばすと雪で滑らないかと不安がよぎる。年を取った証拠である。

 積雪10cm程度の純白の道がまっすぐ続いている。15分ほどで気象レーダーがある場所へ届いた。数年前から始まった施設の建替え工事は終了し、ゲートも新しく設置されていた。気象レーダーも小型となり、建物も以前の大きさの半分になっていた。すべてが新しく生まれ変わっていた。

新しくなった福岡管区気象台のレーダー施設
新しくなった福岡管区気象台のレーダー施設

 鍵のかかったゲートの脇は人が通れる隙間となっていた。ここからレーダー施設のほうへ向かった。銀世界のなかに、白いレーダーと真新しい建物が映えていた。

 敷地内の車道を歩く。左の灌木の茂みに自生していた紅白のドウダンツツジは作業で伐採され、法面と化していた。右側のドウダンツツジの大木が伐採されていないかを確認するため、山の斜面をのぞき込んだ。落葉した樹木ばかりで、どれがドウダンツツジなのか判別できなかった。春には花が咲く。それまで待つことにした。

 以前、建物の裏には展望が楽しめたコンクリートの狭い場所があったが、大勢で展望が楽しめる広いスペースとなっていた。雪に覆われた斜面を滑らないように慎重に上がる。ここから西に金山山頂、北に博多湾から福岡市街地がくっきりと展望できた。視界を脊振山に向けると、雪を被ったりりしい姿があった。

 東に佐賀県の有明海が見渡せ、筑後川が薄曇りに光っていた。その奥に雲仙、多良岳がぼんやりと見え、手前の天山ははっきりと見ることができた。その下の天山スキー場には頻繁に通った。残念ながら今年早々、スキー場は温暖化による雪不足とスキー人口の減少で経営難となり廃業した。世話になった天山スキー場に思いを馳せて、しばらく眺めていた。

気象台のレーダー施設から脊振山(1,055m)を展望
気象台のレーダー施設から脊振山(1,055m)を展望

 博多湾から吹き上げる強風が体を冷やした。カメラを持つ素手が凍傷になりそうなほど冷えていた。ここから引っ返して、途中の矢筈峠に下り、マンサクの開花状況を視察に行く。谷も雪面となっていた。

 100mほどの急な坂を設置されたロープを頼りに下った。5分ほど下るとマンサク谷へ届いた。静かな谷は小鳥の声もなく物静かだった。山の斜面を少し登り、マンサクの開花状況を視察。残念ながら1つの蕾も見当たらなかった。あと2週間くらいでマンサクは開花するはずだ。ここには例年、仲間たちと観賞にきている。

静けさが漂うマンサク谷
静けさが漂うマンサク谷

 再び矢筈峠に引っ返して、筆者がつけた雪面の足跡を踏みしめながら車に戻った。時刻は正午前、気温4℃と車の温度計は表示していた。

 乾いた喉を潤し、下山することにした。航空自衛隊基地の守衛さんに「先ほど側溝に落ちた車の処理は終わっていますか」と尋ねた。「終わっています」との返事。これで三瀬峠方面へ迂回せずに済む。

 午後になって太陽の日差しも強くなり、幾分道路の雪が溶けてきたとはいえ、下りカーブは慎重に運転した。

 久しぶりに雪山歩きや、愛車で雪道走行を堪能した私の体にアドレナリンが溢れていた。ちょっぴり若返った贅沢な時間だった。

(了)

2022年2月21日
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

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