2024年05月03日( 金 )

かしいかえん跡は何ができる?跡地利用考察(後)

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香椎花園のレガシーを継承した、東区の新たな文化・教育の場へ(つづき)

香住丘高等学校
香住丘高等学校

    さて、筆者なりの1つの提案(妄想?)としては、かつての香住ヶ丘の開発段階で目指してきた「文教地区」という性質を、さらに強化していく方向性はどうだろうか。幸い、香椎花園のすぐ横には、香住丘高等学校という第4学区でも有数の進学校があるほか、福岡女子大学、香椎第二中学校などもある。香住丘小学校だけは少し離れているが、64年5月の竣工後に増築・改装を重ねてきた校舎の老朽化も進んでいるため、この機に香椎花園跡地に新築・移転してみるのもいいだろう(民有地に市立小学校を移転できるかの問題はあるが…)。そうすると小・中・高・大と一通りの教育機関がそろうことになる。そこにさらに専門学校や大学のサテライトキャンパスなどの教育関連施設を誘致していけば、香椎花園跡地を中心として、市内有数の文教地区が誕生することになる。日本においては一時、九大・伊都キャンパスのように、都心部から郊外へと大学を移転させる動きが流行った時期があったが、今では逆に都心回帰の動きが顕著になってきているという。その点でも、この地に教育機関を集積していくことは、理に適っているはずだ。小・中・高・大の学生らが集まることで、活気も呼び込めるだろう。

 また、千早エリアに移ってはしまったものの、香椎花園横にはかつて東市民センターおよび東図書館などの文化施設もあった。そうした文化施設なども新たにつくることで、学生だけでなく、多くの市民の“学びの場”へと昇華していくことも可能だ。さらに、かつて大リーガーのジョー・ディマジオが訪れたという香椎球場があった歴史も踏まえ、スポーツ関連施設を盛り込んでみるのもいいだろう。すぐ横には東体育館もあり、既存施設との連携が図れれば、ちょっとしたスポーツパークにもなりそうだ。

 そして忘れてはならないのが、先ほど触れた「緑」の要素だ。香椎花園はその名の通り「花」をテーマにした遊園地であり、“森の動物たち”をテーマにした「シルバニアガーデン」の要素も取り入れられていた。世界的な庭園デザイナーである石原和幸氏の監修の下、園内の植栽には並々ならぬこだわりを見せており、園内のアトラクションにも「森」を冠する名前が付けられているものが多かった。この「緑」「花」「森」などの要素は、跡地活用の際にもぜひ取り入れたいところだ。そのため、香椎花園跡地全体を木々や花にあふれる巨大な公園のようなかたちで整備し、前述の教育・文化施設やスポーツ施設なども、そのなかに配置していくのが望ましい。

 この「緑」の要素は、たとえ西鉄が「香椎花園跡地ではマンションや戸建の開発を進めていく」という最終決断を下した場合でも、取り入れることをぜひ検討していただきたいところだ。

 たとえばマンション開発においては、大胆な屋上緑化や壁面緑化を取り入れたマンションはどうだろうか。今や“都心の森”として認知されている「アクロス福岡」のように、一見すると巨大な樹木と見紛うようなマンションだ。そうしたマンションを、まるで森を形成するかのように数棟配置していけば、香椎花園のイメージを大きく損なうことはなく、近隣のマンションとの差別化も図れるだろう。

 また、戸建エリアにおいては、「花木に囲まれて皆で暮らす住宅地」というコンセプトの開発も面白い。各住宅が碁盤の目のように整然と並ぶのではなく、垣根や塀をつくらず境界を曖昧にし、一帯を共有の庭として植栽していく「シェアガーデン」的な発想だ。イメージとしては、キャンプ場の木立のなかに立ち並ぶバンガローのような感じだ。住民だけが立ち入れる「私」の空間と、一連の公園・施設群からつながる「公」の空間との線引きは必要だが、うまくいけば戸建開発における新たなモデルケースとなり得るだろう。

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 現時点での跡地活用方針がまだ「白紙」段階ということを良いことに、本稿では筆者なりの「こうなったらいいな」的な跡地活用案の“妄想”や“妄言”を垂れ流させていただいた。ただ、この地で暮らし、中学校の通学時には毎日のように香椎花園の横を通っていた1人としては、何らかのかたちで香椎花園の“レガシー”を後世にまで引き継いでくれることを願ってやまない。今後、どのようなかたちで結実するかはわからないが、香椎花園跡地の再開発が起爆剤となり、近隣の香椎や千早エリアにも良い効果をもたらしながら、東区および福岡市全体の活性化にもつながっていってくれることに期待したい。

(了)

【坂田 憲治】

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