2024年04月20日( 土 )

【ラスト50kmの攻防】九州新幹線長崎ルート “キーパーソン”の交代

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 九州新幹線長崎ルート未着工区間の整備方式に関する国交省と佐賀県の協議が行き詰まる一方で、昨年10月末の総選挙前後から、この問題に絡む“キーパーソン”が相次いで交代した。そして任期満了にともなう佐賀県知事選挙も12月投開票が有力視される。

メンツ立て合った”妥協の産物”

 未着工の新鳥栖-武雄温泉は、与党検討委が2019年8月に「フル規格が適当」としたのに対し、佐賀県は「フル規格前提の協議には応じられない」と拒否。同年12月、当時の赤羽一嘉国交相が「フル規格を前提にしない『幅広い協議』」を、山口祥義知事に呼び掛けて始まった。

 一連の経緯から明らかなように、「幅広い協議」は双方のメンツを立て合った政治家同士の「妥協の産物」。ところが、実際の協議に臨むのは国交省の担当課長と佐賀県の担当部長。政治主導で進んできた整備新幹線建設の段取りを、一端は役人に「丸投げ」して政治家の出番を探っているかのようにもみえる。

 昨年9月の自民党総裁選でトップが交代。続く総選挙で自民党の岸田政権が圧勝した。総選挙では自民党西九州ルート小委員長が落選、昨年12月に党総務会長代行の森山裕衆院議員が小委員長に就いた。

 対する山口知事は1月、衆議院第一議員会館で森山氏と面談した。山口氏と西九州ルート小委員長の面談は21年6月以来だった。実は、森山氏は小委員長就任直後、山口氏に電話で面談を申し入れていた。

 コロナ禍が落ち着くのを待って、2人は佐賀県庁で2回目の面談を約束している。

 山口氏は15年1月の知事選で自公推薦の新人との一騎打ちを制して初当選。自民から離反したJAグループの集票力が押し上げた。18年12月の前回選挙は、共産推薦の新人と争う事実上の”信任投票”で再選された。

 現時点で三選出馬は正式表明していないものの、24年10月に佐賀県での開催が決まっている「国民スポーツ大会/全国障がい者スポーツ大会」の主会場整備を精力的に進めている。

佐賀サンライズパーク
佐賀サンライズパーク

未着工区間整備で自民党と距離

 半面、未着工区間の整備方式や佐賀空港隣接地にオスプレイを配備する陸自佐賀駐屯地計画では、自民党佐賀県連と距離を置く。ただ総選挙では衆院1区、2区とも自民は前回総選挙に続き立憲民主に連敗。7月には1議席を争う参院選が控える。党県連内では山口氏の対応に不満がくすぶるものの、対立候補擁立などの表立った動きはみえない。

 佐賀県議会の2月定例会が2月17日に開会。25日、山口氏の主地盤が選挙区の自民党議員が代表質問に立った。同議員は未着工区間の整備方式や佐賀駐屯地整備計画を取り上げ、「知事は慎重になりすぎて判断が先延ばしになっていないか」と尋ねた。山口氏は「判断にはタイミングがある。間違えるとマイナスにもなって、取り返しが付かない」などと答弁、慎重姿勢を続ける考えを伝えた。

新しい長崎県知事もトップ会談呼びかけ

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 山口氏が三選を狙う態勢は万全とまでは言い難い。総選挙直前の佐賀市長選挙では、同市の山口後援会長だった現職の秀島敏行氏が勇退した。秀島氏は市長を4期務め、佐賀駐屯地整備計画や未着工区間のフル規格整備に慎重な姿勢を貫き歩調を合わせていた。

 秀島氏が後継者を指名しなかったこともあり、同市長選挙は新人6人が乱立。選挙戦終盤になって、秀島氏は立憲民主が全面支援する同市職員OBの支持を表明したものの、自民推薦で国交省OBの坂井英隆氏が当選した。

 お隣の長崎県では2月20日に県知事選が行われ、新人で厚労省OBの大石賢吾氏が、4選を狙った現職の中村法道氏を破った。大石氏はフル規格推進派。早速、未着工区間の話し合うトップ会談を山口氏に呼び掛けた。

 19年4月、与党西九州ルート小委員会で山口氏はこう断言している。「佐賀県は未着工区間の新幹線整備を求めていない。建設費の地元負担を義務付ける整備新幹線で、地元自治体の県が整備を求めていない以上、前に進むことはあり得ないと認識している」。

 12月中と予想される佐賀県知事選。自民党農林族の“ドン”として知られる森山氏は、農水相時代に農協改革を推進する農水事務次官と対立し、JA全中の解体を阻んだとされる。

 西九州ルート小委の上部組織、与党整備新幹線建設促進プロジェクトチームの副座長に就いた赤羽前国交相は、与党の立場に回って「幅広い協議」で得られた成果への判断を迫られる。

 こうした周辺の政治状況の変化を念頭に、山口氏は三選を狙うとみられるが、未着工区間の扱いが”ハードル”の1つになるのは容易に想像できる。

【南里 秀之】

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