【提案】箱崎キャンパス跡地を「グリーンフィールド」に(後)
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まちと長く付き合っていく経営
都市開発は往々にして、つくり手と受け手を明確に分けてしまいがちだ。しかし、受け手もつくり手になり得るフラットな土台がほしいし、住んでいる人が、「自分たちがこのまちを育てているのだ」と参加できるような仕掛けがあったらと思う。たとえば、大きな書店1つではなく、あらゆる場所に3分歩いたら本を売っている場所があるといったような分割をして点在させる。それはカテゴリ別でもジャンル別でも、オーナー別でも何でもいいけれど、すべてを1つの店舗で済ませるのではなくて、小さな本屋が分散し拡張していく「こま切れの本屋」みたいなネットワークをつくる。
大きな箱を先につくるのではなくて、同時進行型のランディングシステムをつくって、そこに向けて人や箱を乗せていく…すべてをつくり固めるのではなく、決まらないことがあってもいいし、余白や空地をつくって、あえて決めない空間があってもいい。また、木というテクスチャーは年月でどんどん変わっていくから、20年~30年の長いスパンで施主と信頼関係を築いていかないとならない。そういう付き合い方ができる入居者を管理人として選別するとか。まちのコーディネーターのような面白い人を忍ばせるといったことも同時に稼働させる。小さく緩やかに拡がっていくような、有機的な感触の空間みたいなものが、増殖していくと楽しくなるだろう。
グリーンフィールド型の路面デザイン
箱崎キャンパス跡地に、グラウンド(地面)レベルの具体的なアプローチを提案してみたい。こちらも有効に働くようであれば、ぜひ取り入れてみてほしい。
【レギュレーション(形状編)】
手法⑥…グラウンドレベル開放地域
1・2Fを開放。透明性のあるガラス系材料の使用や空間開放などで、不透明な壁で視界を遮らない。都市界隈に「場所を開放する」という建築的ルール付けをする。
手法⑦…グラウンドレベル優先用途
花屋、カフェ、単品食物販店、シェアレンタル事業店、カルチャー発信等の特殊要件を満たすような用途開発。
手法⑧…パブリックスペースを拡げる
バルセロナの「スーパーブロック」計画のように、車路を規制して歩行者優先のモビリティ空間を拡げる。大幅道路(幹となる幹線道路)と中幅(主枝になる道)は残し、小幅道路(副枝になる脇道)は歩行者の活動に使える自由用途エリアとする。
手法⑨…車両進入禁止エリアの拡大
箱崎1丁目界隈には、昔ながらの商店が残っている。1個40円のシュークリームを売る洋菓子店、150円のかき氷(ミルクかけ)を売る氷屋など、かつての町屋・商家界隈にあたる狭小エリアに、肩を寄せ合って営みを続けている。前面道路の幅員は3mにも満たない、近所の子どもたちが走り回るような場所。そんな1本入り込んだ路地などは緑のグリーンベルト(緑地帯など)で覆い、車の走行や騒音に脅かされない“溜まりの場所”へと変貌させてはどうだろう。その旅情を残しながら、グリーンフィールド街区も同様に車の進入を制限させる通過車両禁止エリア構造に。『緑地専用地域帯』のような新しい用途地域の提案。
手法⑩…偶発性を設計する
デジタルネイティブ世代(フィルターバブルとリベラルな若者たち)を今後の対象とするならば、彼らはキュレーションされて最適化されたものばかりを見て育っているので、自分の意図に反して入ってくる一方的な心地良い情報とか、想像していなかった突発的なアクシデント、カテゴライズされていないセレンディピティ、見たことないものにたまたま出会うなどの偶発性を設えるのが、都市の魅力となるだろう。自分の力、ネットの検索ではたどり着けないようなものに、どうやって触れさせられるように設計できるか――。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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