2022年08月15日( 月 )
by データ・マックス

“アート思考” でとらえ直す都市の作法(2)

探究の根を張る

 「アート×都市」を探究するうえで、6つのアプローチから過去の事象を学び、未来への“提案の種”につなげてみたいと思う。

① 住む場所(住宅)の歴史
② 日本社会(文明)の歴史
③ 資本主義の歴史
④ 働く場所(オフィス)の歴史
⑤ 学ぶ場所(教育)の歴史
⑥ 里山景観の歴史

【①    住む場所(住宅)の歴史】

「通う」日本の都市

外側に花を飾るヨーロッパの街路
外側に花を飾るヨーロッパの街路

    パリを含めてヨーロッパの街では皆、窓辺に花を飾る。彼らにとっては、自分のために花を飾るという意識以外に、自分の町の、自分の通りに対して花を飾るという意識が同時にある。ヨーロッパの都市に住む人たちは、伝統的に城塞の民であり、城壁に囲まれたなかに一緒に住んでいることに共感があって、自分の街だという誇りをもっている。これが都市の人。こういう都市の人たちは、都心にどっかりと腰を落ち着けて住んでいる。そして、仕事も都市のなかでする。基本的には職住が一致していて、だからこそ昼になればゆっくりとした昼食をとりに家に帰って、そのついでに昼寝をしてリラックスして、また仕事に戻る。仕事が終われば、夜は軽い食事をして、オペラやコンサートなどを楽しむといった生活ができる。都会に住んでいるのだから、都会の生活、楽しさを十分味わっているのだ。

 一方、日本ではどうだろう。かつて高度経済成長時代、サラリーマンたちは郊外へ住居を構え、都心の会社へ通った。職場まで1時間程度かけて通勤するのは一般的だった。お父さんはその程度の通勤をいとわず、お母さんは専業主婦として家庭を守り、そして子どもたちは自然環境が豊かなエリアで伸び伸びと育つ―これが都心で働くサラリーマン一家の平均像だった。家から離れた職場まで出向き、「長時間労働を基本とした移動は当たり前」「職場と自宅が離れているのは皆同じ」「都市に通って郊外の家に帰る」というライフスタイルは、日本の都市では当たり前の風景だった。

農家の家は南向き

 これは、ヨーロッパ人が城塞の民であり、日本人は農村の民だという由縁だ。農民は土地があってこそ収入を得られるのだから、農民は城塞の民のように隙間なくびっしりとくっついて住んでいるわけにはいかない。周辺に耕すことのできる広さの土地をもったかたちでしか、家を考えることができない。だからそういうかたちで、家と集落とをつくってきた。

 農家は南に玄関があり、その横ならびに縁側がある。縁側の前に中庭があって、そこで穀物などを干している。その先に門があり、そこから人が入ってくる。門から入ってきた人は中庭を横切って、玄関など入らずに縁側に座って家人と茶を飲み、世間話をしたりする。庭の横には馬小屋や納屋がある。作業をするためには、陽のあたる南向きに玄関や庭がないと困る。だから農家は、基本的に南入りになっているのだ。

 人口が密集してくると、家々を塀で連ねた集合体としての村ができ、その真ん中には全部の家の屋敷林を集めた鎮守の森があり、周辺に農地、そしてその外側には、新たに開拓した新田がつくられる。やがて、これが里山をかたちづくり、日本の都市の原型につながっていく。近代のマンションやアパートは、リビングとバルコニー側を南側にあてたいから、廊下がすべて北側にあって、玄関が暗い。かつての農家のつくりとは構造上のジレンマがあるが、道路や敷地方角の制約がある場所を除けば、日本中のマンションのバルコニーは、口をそろえて南側を向いている。そんな風習の名残が、今でも都市をかたちづくっているのだ。

農耕民族日本 南向き志向の田園風景
農耕民族日本 南向き志向の田園風景

松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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