2024年04月24日( 水 )

“アート思考” でとらえ直す都市の作法(2)

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戦後、日本男児が放棄したもの

 住宅獲得のプロセスを考えてみよう。親の家を出てワンルームへ、または木賃アパート、結婚して公営賃貸、収入増によって民間共同住宅(マンション)の賃貸から購入、そして一戸建へと進む。公共住宅などは、自分で家をつくるまでのほんの仮の住まいなのだと政府も認めているくらいの存在で、本命はやはり自分で建てる「自分の家」だろう。

 かつては家を建てるというのは、一家の主人の仕事だった。その主人がどんな家をつくるかは、その家の伝統や家の格式や教育方針などと関わりが深かったし、さらにはその主人の芸術的な素養を示すものでもあった。ところが当時、家をつくるのは主人の旗振りではなく、主婦の役割になってしまった。戦後の日本男性は、家のなかで2つのことを放棄してしまったと言われている。1つは育児・教育であり、もう1つは住宅建設である。つまり、家のなかのことはすべて女性に任せて、自分はすべてのエネルギーを会社のなかで使うことにしてしまったのだ。
 また、日本の学校では住宅について教えない。家に関して義務教育では、中学校の家庭科で機能的な台所とか整理整頓を教えることになっているが、つまるところその程度だということだ。普通は、家のことをまったく何も習ってこない。ヨーロッパの多くでは、男子は高校までに家のメンテナンスや家庭電気製品の修理、女子はインテリア・コーディネーションの基礎を習っているという。フィンランドでは、小学生用の教科書に国土と建築の様式、生活用具、公営住宅、建築の工法から、都会に住むことと農村に住むことの違い、図面の読み方・書き方までイラスト入りで丁寧に説明してある。それに対して日本では、男性も女性も家についてはまったく何の知識もないままに、大人になってしまうのだ。

昭和の家族像(NHK出典)
昭和の家族像(NHK出典)

日本の未熟な住宅教育

 高校までは受験勉強に明け暮れ、大学は遊ぶところ、就職してしばらく働いた後に結婚、子どもができたら育児、子を良い学校に進学させたいと塾の送り迎え―といったように、高校卒業以後はひた走りに走り続けてきて、あっという間に10数年が経ってしまった「主婦」が、いざ家を建てようかという話になったときに、「後はお前に任せるよ」と、お父さんから家づくりを任されるというのが当時の家庭事情だった。それでも家をつくらなければならないから、主婦は欲望の赴くままに情報をかき集める。これが住宅産業のたどってきた実態ではないだろうか。

個人と民間に託された“持ち家政策”
個人と民間に託された“持ち家政策”

    一昔前のように、要求を整理するなり、はっきりとものを言って面倒を見てくれるような大工の親方もいなくなってしまっている。相手は、こうした主婦の言いなりになってつくるようなメーカーだったとすれば、日本の郊外住宅の一軒一軒がまったく違った価値基準で建てられ、“百鬼夜行”の風景になるのが必然だともいえる。個人と民間企業に託された都市群像、戦後の住宅政策の歩いてきた住空間の歴史を反転させていくためにも、住宅教育の拡充が求められているのだ。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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