“アート思考” でとらえ直す都市の作法(2)
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戦後の住宅政策
1945年の敗戦をきっかけにして、日本は文化から生活まですべて大きく変わったが、住宅供給もここで大転換する。この時点で、戦災によって焼け出された人や海外からの引き揚げ者などで、約420万戸の住宅が不足していた。本来ならば、ここで人々が住む家を供給することが国の最優先されるべき政策だったにもかかわらず、日本政府は残った金と、世界中から集まった復興資金の大部分を、炭鉱と製鉄に投入する。つまり、筑豊の炭鉱に投入した資金で石炭を掘り、その石炭を八幡製鐵に運び鉄をつくる。八幡でできた鉄を筑豊の坑道に戻し、石炭の増産を図る。これを繰り返すことによって、日本の鉱工業生産は約5年で戦前のレベルにまで回復する。つまり5年間という短い時間で、日本の第二次産業は復活してしまうのだ。
資金のすべてを第二次産業の復活に投入するのだから、住宅に回す資金は国家にはない。そこで政府は皇居前広場で“家よこせデモ”が起きるような国民の住宅要求に対して、“持ち家政策”という作戦をとる。つまり、「自分の家は自分でつくれ」という政策である。基幹産業を復興させることによって、個々の日本人の生活が楽になる、楽になるのだから自分の家は自分でつくれるようになる、という立て付けだ。そのための税制に配慮すると同時に、50年には国民金融公庫をつくって建設資金を貸すようにする。55年には住宅公団ができる。その成果を、今でも政府や公的資金によって建てられた住宅と呼称するけれど、実際は政府がつくったものではなく、ほんの少し政府が民間に貸し付けて、最終的にはほとんど民間がつくったものなのだ。だから厳密には、公的住宅というべきではない。
個人に託された都市の住み家
それでは、ヨーロッパはどうか。たとえばイギリスではチャーチル首相(当時)が、終戦直後、公営住宅法を議会に提出する。「家なくして市民なし」という有名な提案理由演説をしているように、住宅政策を戦後の復興の最重点政策にしている。しかもその住宅は、緊急の間に合わせ用のバラック建築などでは決してない。それは「人間の尊厳を保ち得る住宅と、余暇の時間を活用できる空間をもった住宅でなくてはならない」と謳われていた。こうした公営住宅建設は、戦後のヨーロッパ諸国に多かれ少なかれ共通していた。イギリスだけでなく、敗戦国のドイツやイタリアなど、すべての国の戦後の復興の重点政策だった。だからヨーロッパにおいて第二次産業の戦後復興は遅れたし、その部分の資金を産業復興に回した日本では、急速な産業だけの復興があったのだ。
日本の住宅政策は、「住の問題」は個人と、その依頼を受けて工事する民間企業に委ねられた。その民間企業はあくまでも利益を追求していく存在だから、当然ながら利益を上げなければならない。つまり日本人の家を考える主役、住宅環境をかたちづくる都市の骨格が、土地を売って家を建てることによって利益を挙げる民間集団に託されることになってしまったわけだ。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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