2024年04月27日( 土 )

【公営交通事業考察】京都市交通局の現状と課題(中)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 政令指定都市の地下鉄のなかで、初乗り運賃が220円と最も高く、全般的にも最も高いとされる京都市地下鉄。運営する京都市交通局は経営健全化に努めてきたものの、コロナ禍での経営状況悪化を受け、19年の消費税増税時以来となる運賃改定を24年ごろに予定している。経営に苦しむ地方の公営交通事業の1ケースとして、同局が抱える課題を考察するとともに、筆者なりの改善策を提案したい。

かつての経営健全化計画の成果

 京都市交通局が「財政健全化団体」になった際に人件費を含めた経費を大幅に削減した結果、黒字を計上できるまで収支構造が改善した。

(1)市バス事業

京都市交通局 市バス事業    2008年決算では、財政健全化法に基づく「経営健全化団体」となり、経営健全化計画」を策定したが、京都市交通局の努力もあり、12年度決算では計画より3年前倒しで経営健全化団体からの脱却をはたした。そして13年度には、累積欠損金を解消し、14年度に累積資金不足を解消した。以降は、 京都市の一般会計からの任意の財政支援を受けない「自立経営」を継続していた。

 経常収入は、京都市の一般会計からの任意の財政支援をなくすことで減少したが、経常支出では、経営健全化の取り組みにより、人件費・経費の合計を大幅に削減することで、収支の黒字化を達成した。 

(2)    地下鉄事業

京都市交通局 地下鉄事業    地下鉄事業も、08年度決算で財政健全化法に基づく「経営健全化団体」となり、「経営健全化計画」を策定した。この計画に基づき、収入増加策やコスト削減策に取り組み、09年度以降、現金収支の黒字を継続、15年度には開業年度以来の経常黒字を計上し、利用客増加などによる経営改善により、予定していた5%の運賃改定を回避することができた。17年度決算で、計画より1年前倒しで経営健全化団体から脱却するとともに、有利子負債(企業債等残高+累積資金不足)を大幅に削減した。08年度が5,231億円であったが、19年度は3,750億円と、11年間で1,481億円を削減した。

 地下鉄は、建設に多額の投資を必要とすることから、減価償却が終わって収支均衡するまでに長期間を要する事業であり、多額の累積欠損金を抱えている。まずは現金収支の黒字化および拡大を図ることで、企業債などの負債を着実に返済していくことが、健全経営に向け重要となる。

 京都市交通局では、経費削減を行いつつも、サービス改善も実施して、利用者数を増やす努力もしたため、運賃面では、消費税率の引き上げによる改定を除き、市バスでは25年間、地下鉄では16年間運賃が据え置かれている。

21年11月の利用者数

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 新型コロナウイルス感染症の新規感染者数も落ち着き、秋の紅葉に合わせて利用者数が順調に増加したことで、21年11月の市バスの利用者数は、20年度で最も乗客数の多かった前年同月を上回り、0.7%の増加となった。ただしコロナ禍前の19年11月と比較すると、19.4%の減少となっている。

 地下鉄の利用者数も、前年同月比較では2.4%増加したが、コロナ禍前の19年11月と比較すれば、22.0%の減少となっており、依然として厳しい状況が続いている。

 20年度までの経営状況は分かっているが、地下鉄の経常収支は年間で52億9,200万円の赤字であり、市バスの経常収支も48億500万円の赤字であった。地下鉄事業は、14年度から19年度までの経常収支は黒字であり、バス事業は12年度から19年までの経常収支は、黒字であった。

 コロナ禍による利用者数の減少により、地下鉄・市バスともに赤字経営に陥り、京都市交通局も再び、経営健全化団体に転落してしまった。だが今回は前回とは異なり、需要が戻るのに時間を要するため、職員の給与削減だけでは、経営改善が難しいといえる。

 京都市交通局は、3年後の24年にコロナ禍前と比較して90%、5年後の26年に95%まで戻ると予想しているが、テレワークや遠隔授業の普及もあり、不透明感もある。

 京都市の場合、大学が多い街ということもあり、15~64歳までの生産年齢人口のうち、2割は学生である。社会人は、テレワークの普及もあり、不透明感がある一方、学生は自宅にこもらず、大学近くのカフェに行ったり、アルバイトをしたりしている学生も多くいる。それゆえ公共交通に対するニーズも多数あると、京都市交通局は見ている。

 また学生は、対面授業の必要性を訴えており、観光に比べると戻る割合が高く、かつ戻る時期も早いと予想されている。

 以前、経営健全化団体になったときは、人件費の削減で対応することができた。京都市は観光で成り立っている街でもあるため、今後も「観光」を抜きには語れない。需要が戻ってきたときの対応も不可欠であるから、大幅な要員合理化はできない状況にある。また、通勤・通学時の輸送を行う、朝のラッシュ時の運転要員を確保しなければならず、かつ昨今では、バス運転手の不足もあるため、給与の引き下げも難しくなっている。

(つづく)

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