2024年04月20日( 土 )

京都新聞を呪縛した白石浩子、イトマン事件・許永中とも渡り合う(後)

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 報道各社が、(株)京都新聞社の持株会社、(株)京都新聞ホールディングス(HD)の前代未聞の不祥事を報じた。主役は京都新聞の“女帝”として君臨してきた元相談役・白石浩子氏(81)だ。バブルの時代、大阪の中堅商社イトマンを舞台にした戦後最大級といわれた経済事件で、その名を轟かした許永中氏。グループを揺るがしたお家騒動の際、「フィクサー」許永中氏と渡り合ったのが白石浩子氏だ。いったい“女帝”に何があったのだろうか。

許永中氏が内田氏の救済に乗り出す

日本酒 イメージ    あの時代は「フィクサー」が闊歩した。フィクサーとは、事件などを陰で調停、処理するまとめ役。表社会と裏社会をつなぐ人脈の持ち主だ。京都新聞社とKBS京都の内紛は、フィクサー同士の話し合いで決着した。

 浩子氏から解任されそうになった内田氏が、駆け込んだ先が、関西のフィクサーである野村周史氏。生前の英司氏が野村氏と親交があり、内田氏が助けを求めた。その野村氏から送り込まれた許永中氏が、内田救済策に乗り出したのだ。

 もう1人のフィクサーも登場する。京都のフィクサーの山段芳春氏。京都信用金庫傘下のキョート・ファンドの会長で、京都のあらゆる分野に幅広いネットワークをもつ「よろずモメゴト処理」を生業とするフィクサーだ。「山段ネットワーク」の拠点が、京都の権力機構に連なる現職とOBが名を連ねていた京都自治経済協議会で、理事長は山段氏だ。

 KBSの大株主、京都信用金庫常任顧問でもある山段氏は、浩子氏側についたとされるが、実際はそうでもない。浩子氏が実弟を新聞社の社長に据えたため、素人が新聞社を経営することは問題ありとして、あの手この手で浩子氏を攻めていた。山段氏は喧嘩両成敗の立ち位置だ。

 内田氏の解任を阻止するため、許永中氏は手下を連れて、京都新聞社に強い影響力をもっていた京都のフィクサー・山段氏のところへ、株主総会の直前に乗り込んだ。何がしかの取引が成立し、京都新聞社は内田氏の解任要求を取り下げた。

お家騒動は京都新聞とKBSの完全分離で決着

 許永中氏は自伝『海峡に立つ 泥と血の我が半生』(小学館)を著した。「京都へ」と題して1章を充てている。

 それによると、お家騒動はKBS京都と京都新聞社は経営的に完全分離し、互いに干渉しない独立した存在となることで決着した。KBS京都社長は内田氏が引き続きつとめ、新聞社は浩子氏の実弟がオーナー経営者になった。

 KBS、京都新聞両社の経営を独立させるという正式取り決めは、京都高台寺にある料亭「土井」の中庭に面した大広間で行われた。許氏は、ヤクザの親分を前にしても動じない浩子氏の肝っ玉の太さを、感嘆をもって描いている。

 〈京都新聞は白石浩子会長、社長、常務という布陣であった。KBS京都は内田社長以下、取締役3名、四代目会津小鉄の高山登久太郎会長、山段芳春、私の総勢10名である。

 山段理事長は白石女史を追い込むために相当な“嫌がらせ”をしたといい、白石女史は山段と内田のふたりの顔は死んでも見たくないと抵抗した。それを京都一の顔役である高山会長の立ち会いがあるなら、との条件で、この席がもたれたのだ。〉

酒豪・浩子氏がお家騒動に勝った

 会合のハイライトは次のくだり。

 〈白石女史のたっての要望で、広島の酒である大吟醸ゴールド加茂鶴を大量に用意した。ガラスの一合とっくりのようなかたちをした丸瓶のなかに、金粉がキラキラ浮かんでいる。女性好みのお洒落な日本酒だった。

 白石女史は酒豪だった。高山会長は当時すでに肝臓に病をもっており、酒には口をつける程度だった。山段理事長も酒は弱く、私と彼女が一升酒を酌み交わすことになった。

 女史は飲むほどに酔うほどに、山段理事長と内田社長、殊に内田に関しては苛烈な苦情や叱責を繰り返していた。いうだけ言ったからか、高山会長と私にだけ丁寧に挨拶をして、上機嫌で帰っていったのを鮮明に覚えている。〉

 お家騒動の決着は、浩子氏、許永中氏のどちらにも利益がある、Win-Winだったことが分かる。許氏は山段氏と手を組んで、簿外の債務処理を引き受けることを見返りに、KBS京都を乗っ取ることを認めさせた。

 浩子氏は、夫・英司氏が残した莫大な簿外債務を、グループから切り離したKBSに引き受けさせることで、京都新聞社は傷を負わなくて済んだ。

 その後のKBSはフィクサー人脈が跋扈。労働組合員が会社更生法を申請して、事実上倒産する事態に陥ったが、京都新聞社は難を免れた。浩子氏はお家騒動を勝利で決着をつけた。浩子氏が京都新聞社の”女帝”として君臨する原点となったのである。

(了)

【森村 和男】

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