2024年05月04日( 土 )

事業リスク軽視の末路 ビジネスモデル揺らぐ「新電力」(中)

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 2016年4月の電力の小売全面自由化にともない、大量に新規参入した「新電力」事業者。各社とも多種多様なメニュー・プランを提示し、全販売電力量に占めるシェアを約2割まで拡大させるなど、それまでの大手電力会社が築いてきた牙城を崩す勢いを見せた。だが、その新電力は現在、エネルギー価格の高騰による電力の卸売価格上昇などで経営が悪化し、破産や事業撤退が相次ぐ事態に追いやられている。

大手電力の牙城を崩した電力小売全面自由化

 「新電力」とは、電気事業法に定められた電気事業者の類型の1つである「小売電気事業者」のうち、東京電力や関西電力、九州電力などの全国の大手10電力会社以外の「新規参入の小売電気事業者」を指す。誕生したきっかけは、16年4月の電力の小売全面自由化だ。 

 もともと電力の小売自由化は、2000年3月に「特別高圧」区分の大規模工場やデパート、オフィスビルなどを対象にスタート。その後、04年4月と05年4月には、小売自由化の対象が「高圧」区分の中小規模工場や中小ビルへと徐々に拡大し、16年4月からは、「低圧」区分の家庭や商店などでも電力会社を選ぶことができるようになった。これが電力の小売全面自由化だ。 

 全面自由化の以前は、各家庭や商店向けの電気については各地域の電力会社だけが供給・販売を行い、事実上の独占状態だった。それが全面自由化によって、それまで大手10電力会社が牛耳っていた電力市場が開放。いわば大手電力会社の牙城が崩されたかたちだ。こうして全面自由化によって、電力市場においてもこれまで以上に競争が促進されることが期待された。 

【表】小売電気事業者の登録数の推移    その結果、ガス会社や石油元売などのエネルギー企業、通信会社、旅行会社など、多くの異業種が次々と電力業界に参入。資源エネルギー庁が発表している電気事業法に基づく登録事業者数によると、16年4月末時点では291事業者だったものが、22年3月末には752事業者まで増加した(【表】参照)。ただし、冒頭に紹介したように、最近相次いだ破産や事業撤退を受けて、5月31日時点では740事業者まで減少している。 

 電力小売全面自由化によって“雨後の筍”のように次々と参入した新電力事業者は、「電気+ガス」や「電気+携帯電話」などの組み合わせによるセット割引や、ポイントサービスなどさまざまな料金メニュー・サービスを提示し、顧客を獲得。資源エネルギー庁の発表資料(5月27日)によると、全販売電力量に占める新電力のシェアは、今年2月時点で約21.5%、そのうち家庭などを含む「低圧」分野のシェアは約24.2%を占めるまでになっている。 

次々と参入を促した低い参入ハードル

 これだけ新電力の事業者数が増加した背景の1つに、参入ハードルの低さがある。 

 新電力を含めた小売電気事業者の登録には、経済産業省への申請が必要となるが、この登録は法人・個人を問わずに行うことが可能で、法人の場合には法人形態(株式会社、一般社団法人など)や資本金の額などによる制限もない。

 また、電力会社というと、大がかりな発電施設をはじめ、各戸に電力を供給するための送配電設備や送配電網(送配電ネットワーク)などを自前で保有しなければならないというイメージがあるが、新電力の場合はそれも必要ない。太陽光発電などの自前の発電施設をもつ事業者もいる一方で、新電力の多くは自前の発電施設をもたず、大手電力会社が(一社)日本卸電力取引所(JEPX)の市場に卸す余剰電力を仕入れて顧客に供給しており、ビジネスモデル的にいえば、製造業でいう「ファブレス」(fabless:工場をもたない)戦略に近い。送配電についても、国の発送電分離政策によって大手電力会社から分離した一般送配電事業者のものを利用している。つまり、他所で発電した電力を仕入れ、一般送配電事業者の送配電ネットワークを利用して電力小売を手がけているのが新電力であり、言い方は悪いが「人の褌で相撲を取っている」ような状態だといえる。電力そのものは目に見えない商品なので、倉庫や実店舗などを構える必要もなく、参入にあたっての初期投資は少なくて済む。いわば、少ない投資とリスクで収益を上げられる“おいしい”ビジネスモデルだと考えられたのだ。 

 こうして新電力への参入が相次いだわけだが、このビジネスモデルこそが現在の苦境を招いている原因となっている。

(つづく)

【坂田 憲治】

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