2024年05月04日( 土 )

事業リスク軽視の末路 ビジネスモデル揺らぐ「新電力」(後)

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 2016年4月の電力の小売全面自由化にともない、大量に新規参入した「新電力」事業者。各社とも多種多様なメニュー・プランを提示し、全販売電力量に占めるシェアを約2割まで拡大させるなど、それまでの大手電力会社が築いてきた牙城を崩す勢いを見せた。だが、その新電力は現在、エネルギー価格の高騰による電力の卸売価格上昇などで経営が悪化し、破産や事業撤退が相次ぐ事態に追いやられている。

エネルギー高騰が経営圧迫

電力 イメージ    新電力のビジネスモデルでは、顧客への小売料金と仕入料金(電力購入費)との差額が自社の利益になる仕組みとなっている。そして、コストとして考えられるのは「電力購入費」「託送費」「インバランス費()」「管理費など」の4つで、そのうち最も大きな割合を占めるのが電力購入費だ。だが、電力の購入元はほとんどがJEPXに一極集中しており、他社に比べて電力購入費を安価に抑えるなどの差別化を図ることは難しくなっている。そのため、新電力のビジネスモデルにおいては、「従来の電気料金より安くなる」などとうたった電力小売を“客寄せパンダ”的な集客商品として捉え、「新電力+α」で事業を構築していく事業スキームが一般的になっていった。利ザヤの薄い電力を薄利多売して顧客を獲得し、そこからいかにガスや通信などの本来のビジネスにつなげていけるか。こうして新電力は、当初思い描かれていた「リスクが少なくて簡単に収益を上げられる」状況からはほど遠くなり、薄氷を踏むかのような収益構造へとなっていった。 

 それでも、JEPXにおける電力取引価格が安定していれば、各社ともそれなりに収益を上げられていたのだが、所詮は“砂上の楼閣”に過ぎない。外的要因で電力取引価格がいかようにも変動するリスクを各社とも軽視してしまっていた。 

 そこに襲いかかったのが、電力取引価格の高騰だ。21年秋からのエネルギー需要の増大にともなう天然ガス価格の急騰に加え、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた経済制裁措置により、ロシア産の石油やガスの輸出が減少したことによるエネルギー価格の高騰、さらには国内の電力需給の逼迫といったさまざまな要因によって、長期間にわたってJEPXにおける電力取引価格の高騰が続いている。すると、新電力各社では仕入料金が小売料金を上回る“逆ザヤ”状態となり、電力を売れば売るほど赤字となる状況に転落。冒頭に述べた複数社の破産は、こうした状況が経営を直撃したかたちだ。 

 16年4月の電力小売全面自由化によって一躍沸いた新電力市場だが、世界情勢の影響を受けて、わずか6年であえなく瓦解する羽目になった。

※:新電力において電力の需要量と供給量の同時同量を達成できずに、供給する電力の過不足が発生した場合、その調整のための対価として支払わなければならない料金のこと。 ^

相次ぐ撤退、新電力の今後は?

 ただし、新電力の場合は参入ハードルが低くかった分、事業撤退を決断するハードルも低いようで、冒頭で述べた相次ぐ事業撤退はこれが理由だ。企業側の論理としては、破産のような最悪のケースに陥る前に、収益が低く将来性が見込めない事業に見切りをつけるのは、ある意味、当然の選択だといえよう。だが、そう簡単に事業撤退をされてしまっては、新電力に魅力を感じて契約していた顧客側はたまったものではない。SNSなどで発信されている情報では、新電力の「サービス終了のお知らせ」が、短い文書で終了直前に届いたというケースも報告されている。新たな電力小売会社との契約切り替えも顧客任せだ。こうした責任感が欠如した新電力の姿勢は、収益性が悪ければわずかな期間でもユーザーを切り捨ててサービスを終了するソーシャルゲーム(ソシャゲ)アプリになぞらえて、“ソシャゲ感覚”とも揶揄されている。 

 新電力の現状について、萩生田光一経済産業大臣は閣議後の記者会見で次のように発言している。 

 「電力自由化以降、足元でも新電力を含む小売電気事業数は増加をし、現在の事業者数は752社におよんでおりますが、燃料価格高騰などにともない、休廃止などに至る事業者も出現しているのも事実であります。とくに新電力のなかにはこうした状況に対してあらかじめ対策を講じていた事業者も存在する一方、経営に苦しむ事業者も存在していると承知しております」(4月1日)。 

 「やっぱり自由化に参入した企業は国民生活に密着したエネルギー供給を業とするということは、覚悟をもって参入すべきだと思うんですね。これ、ちょっと、儲かりそうだって簡単な思いで参入した企業があるとすれば、そこはちょっと考え直してもらわないといけない、今回そういう課題が突き付けられているんじゃないかなと思います」(4月15日)。 

 電力の小売自由化を推進してきた経済産業省の長の言葉としては、何とも他人事に聞こえなくもないが、人々の生活に直結する電力供給を事業とする以上、参入にあたっての覚悟や責任感のようなものは必要だったのかもしれない。そもそも参入ハードルが低い分、その裏に潜むリスクはあって然るべきなのだが、それを軽視した結果が現在の状況だ。 

 現在の苦境のなかで淘汰が進み、いずれ適正な事業者数や市場へと落ち着いていくのか。新電力は今、岐路に立たされている。

(了)

【坂田 憲治】

(中)

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