2024年05月03日( 金 )

「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【2】商いと暮らしの中和点を論考する(前)

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GDPよりQOL

 日本では、大企業と富裕層のための反分配型、強者が総取りするような経済政策をずっとやってきた。経済活動で上がった余剰分を、配当を高くして資本家の利益にする。大企業の経常利益は増えるが、分配が行きわたっていない。だから、教育費や研究費に回っていかない。GDPに直接寄与しないという理由で、「文学部は廃止してしまえ」といった論調まで出てくる。経済合理性に貢献するもの以外は切り捨てるという、愚かな考え方だ。

GDPよりQOL
GDPよりQOL

 GDPのためにあきらめたこと、犠牲にしてきたことが、端的に表れるところはどこだろう。「あなたたちは戦力外だ」と見なされてゲームをプレイできないような、お母さん/子ども/障害をもっている人/その家族など、いわゆる「シャドウ・ワーク」といわれる群像たちだ。「シャドウ・ワーク」は無報酬での仕事というわけではなく、人間が生きていくために、最も根源的で必要な基本的な行為だ。もう一度シャドウ・ワークの価値を通じて、いかに気持ち良く生きるかということを再確認し、上位目的にしていく世の中に変わっていきたい。

 デンマーク、フィンランド、ノルウェー、オランダのような北欧の国々は、幸福度が高いことで知られている。いわゆる「QOL(Quality of Life:生活の質)が高い国」ということだ。ここで見落としてはならないポイントは、それらの国々はGDPも同時に伸ばしているということだろう。幸せに暮らせる人は、成長の力も伸ばしていけるということだ。

「この子の未来のために…」の有効期間

「この子の未来のために…」の有効期限は?
「この子の未来のために…」の有効期限は?

 小さな子どもをもつすべての親たちが、おそらく一度は口にしたことがあるだろう、「この子の未来のために…」という言葉――。我が子のために。甥っ子・姪っ子のために。地域の子どもたちのために。ひいてはすべての子孫の将来のために。この言葉の持つ誘因力で、一定期間の親たちは、金品や利益権利のような見返りを求めず、ある意味では無償の愛をそこに注ぐ。この愛情(この文句)の有効期限は、一体いつまでなのだろうか。この無償の愛を永続的に子どもの教育事業にする一部の事業者以外は、どこかでその効力/効能は消えていく。我が子の成長とともに自然と薄れ、感覚的に忘れてしまう。やがて子どもも大人になって行くとともに、社会的「未来に」といった概念よりも、「現実」「現在」「現状」を目の当たりにし、具体的思考へと。かつては抽象的であったとしても、未来のために、将来のために、社会のためにと、慈悲の精神が宿っていた新米パパ・ママの底知れぬ愛情、そのエネルギーをそのままラッピングして持続可能な活動へと生け捕りにし、何かに転用することはできないものだろうか。その精神の動員だけでも…。

 教育も変わっていかなくてはならない。これまでの教育における価値基準は、「早く・正確に・同じことを繰り返しできる」経済合理性に収斂(しゅうれん)するタイプの資質や能力を高めることだったが、これからの教育は「何をやりたいのか」が問われるべきだろう。“何をやると幸せなのか”を子どもたちに考えさせる。今後10年・20年、もう少し先の未来に幸せに生きられるかどうかは、「やりたいこと」「楽しいこと」を明確にもっているかどうかだ。「何をやりたいか」に対して、想いが乗っていけるかどうか。「売れる」「儲かる」「拡大」など、経済動機以外の意味と目的を定着させ、新しい価値観を次の世代に渡していきたい。

 「分配の成功事例」として、「ハコベル」が起こした物流革命を紹介しよう。

▼関連リンク
「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【1】 人口減少下にあるべき商業とは


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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