2024年04月19日( 金 )

「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【2】商いと暮らしの中和点を論考する(前)

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アートシンキング

美味しいパン屋はまちを作る
_まちづくりは建物よりコンテンツが重要

    社会が変わろうとしているとき、最初に動き出すのは「アート」なんだろうと思う。世の中へ瞬時に反応し、反射神経をもって訴えてくるのはアートの人たち。世の中で起きている問題や災害、また戦争や紛争に対して、何かしらの投げ込みができるのもまたアートシンキングな人たちだ。それは、専門教育を受けた人やカタチある作品をつくる人でなくともだ。何かしら社会に対して主体的なアクションができるアート思考、その後にデザインが追随し、その後産業につながるといったフォローアップ。アートは「問う/問題提起」、デザインは「答える/問題解決」の手法になる。

 このところは日本でも、アートと経済が一緒に廻るようになってきた。問題提起の作品、実験した問題解決の糸口がビジネスにつながったりする事例も出てきている。前号では、「まちにアーティストを送りこめ」と述べたが、それは彼らが主体的に考え、瞬発力のあるアクションをもって、その本質に近づこうとする嗅覚を持ち合わせているからだ。使われていない空間(例:地下駐車場、屋上、機械室、廃墟、空き家)をアーティストに開く。それをまちが許容し、マネジメントしていく。日本家屋における「縁側」のような中間領域、止まり木になるような場所や有効なハードウェアが、まちのなかに染み出していくような―アーティストとビジネスパーソンのコラボはインパクトが大きいし、今後も重要となっていくだろう。

かみさまがすまう森の廃墟と遺跡(チームラボ HPより)
かみさまがすまう森の廃墟と遺跡(チームラボ HPより)

「教育」と「思想」が必要

 まちづくりをして空間をつくり、賃料を上げて回していこうという流れが、基本的なまちづくりの考え方だろう。しかし、まちの魅力として文化・芸術を掲げることで賃料が上がれば、アーティストや創作場所、文化芸術がそこに存在しにくくなるという矛盾が生じてくる。

 ここに別の価値観を評価することで、アプローチする手段が欲しい。たとえばスタジオやアトリエをまちに開き、学童保育に通うように子どもたちがアート作品に触れる。エコロジカルアーティストの活動に参加して、イベントやエンターテインメントをお祭りのように日常の社会にインストールする。またそこに、飲食店を織り交ぜるといったイメージだ。

着想を広げる世界観を持ちたい
ウィトルウィウス的人体図:レオナルド・ダ・ヴィンチ HPより

 また、同時に全体を俯瞰して構想し、企画、制作してマーケットアウトするまで走り切れる、プロデューサー的存在も欠かせない。かつてはその思想が、1人の人間のなかに多く顕在していた。レオナルド・ダ・ヴィンチは画家であり建築家でもあったが、同時にエンジニアであり、医師であり哲学者でもあった。各分野に精通したスペシャリスト・ジェネラリストでありながらも、思想から現実空間にかたちを落とし込むまでの指揮を執る軍師でもあったのだ。分業によって部分的視点でしか語れなくなってしまった現代人の着想を拡張し、全体感を語れる感覚を取り戻したい。そして、そのための教育も必要なのだろうと思う。

▼関連リンク
「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【1】 人口減少下にあるべき商業とは


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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