2024年05月06日( 月 )

【中国総領事】100年に一度の世界変革と中国の発展(2)

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中華人民共和国駐福岡総領事
律 桂軍 氏

 1972年の日中国交正常化から、今年で50周年を迎える。変革期にある現在世界情勢について中国はどう認識しているか、今後どのような日中関係を望むのかについて、中国駐福岡総領事の律桂軍氏より「100年に一度の世界変革と中国の発展―新たな時代の中日関係構築に向けて」と題する記事を寄稿していただいたので掲載する。

中華人民共和国駐福岡総領事
律 桂軍 氏

 第5に、新たな冷戦の影が、世界やアジア太平洋地域に忍び寄っています。冷戦終結から30年が過ぎた今、一部の大国は冷戦時代の考えを持ち出し、アジア太平洋版NATOやグローバルNATOをつくりたがっています。イデオロギーで線を引き、軍事的、経済的な小グループをつくり、政治的対立をあおり、新たな冷戦を起こして、ヨーロッパをかき乱した後にはアジア、さらには全世界をかき乱そうとしています。世界やアジア太平洋地域は再び、分裂と対立のリスクに晒されているのです。

 中国民主革命の先駆者である孫中山(孫文)先生は、1つの言葉を残しました。「世界の潮流は、浩浩蕩蕩たり。之(これ)に順(したが)うものは則(すなわ)ち昌(さか)え、之に逆らうものは則(すなわ)ち亡(ほろ)ぶ(世界の潮流は滔々として流れている。これに従う者は栄え、これに逆らう者は亡びる)」というものです。今の世界では、プラスのエネルギーが依然として主流を占め、決定的意義をもつ大きな流れが今も主導権を握っています。平和と発展という時代の流れは後戻りできません。経済のグローバル化とアジアの一体化の流れは後戻りできません。人類運命共同体、人と自然生命の共同体構築の道のりは後戻りできません。新たな科学技術革命と産業変革の道のりは後戻りできません。中華民族の偉大な復興の道のりも、後戻りできないのです。

 このような背景から、中日両国は友好的な隣国として、国交正常化の初心に返り、人類運命共同体の精神に則り、双方の指導者が合意した事柄と中日間の4つの政治文書に定めた原則に基づき、イデオロギーや社会制度、政治体制の違いを乗り越え、歴史を鑑として未来を切り拓き、中日両国の平和、友好、協力という大きな流れをしっかりと把握すべきです。中日両国の根本的な利益と人類の共同利益をよりどころとし、新たな冷戦に反対しながら大交流を展開し、グローバル経済の復興、気候変動への対応、新型コロナウイルスとの闘い、多国間主義と自由貿易の維持、経済のグローバル化とアジア一体化のために協力しながら、世界の平和、安定、繁栄のためにプラスのエネルギーを注がなければなりません。

3、中国の発展と新たな時代の中日関係構築

 100年に一度の大きな変化に直面する今、中国は一貫して世界平和の建設と、世界発展への貢献、国際秩序の維持を進めています。各国の利益が一致する部分を拡大させるため、Win-Winの協力関係を核とした新たな国際関係を築き、人類運命共同体と利益共同体の形成を進めているのです。では、中国の経済・社会の発展の現状はどのようなものでしょうか。新たな時代の中日協力には、どのようなチャンスがあるのでしょうか。

(1)新中国成立後の「2つの奇跡」

 昨年、中国共産党は創立100周年を迎えました。100年の間、中国共産党は中国の人民を導き、一連の偉大な成果を挙げました。中華民族は、立ち上がり、豊かになり、強くなるという偉大な飛躍を遂げ、中華民族の数千年の歴史上、最も壮大な物語を書き上げたのです。1949年10月1日、新中国が成立しました。中国人民は、1840年のアヘン戦争から続いた、侵略され、奴隷にされ、搾取された悲惨な運命から脱して立ち上がりました。それから70年あまりが過ぎ、中華民族は立ち上がり、豊かになり、強くなり、偉大な飛躍を遂げています。中国は、先進国が数百年かかった工業化の道のりをわずか数十年で歩み、経済の高速成長と社会の長期的安定という2つの奇跡を成し遂げました。また、中国共産党創立100周年の昨年、「1つ目の100年の奮闘目標」を予定通り達成し、小康社会(いくらかゆとりのある社会)を完成しました。そして社会主義近代化国家の建設と、新中国成立100周年を見据えた「2つ目の100年の奮闘目標」に向け、新たな道のりを切り拓いています。

 「2つの奇跡」は、具体的には以下の通りです。

 第1に、経済の高速成長です。歴史的に見ると、アヘン戦争後、世界経済に占める中国のシェアは下がり続け、中国のGDPが世界全体に占める割合は、1840年の1/3から1950年には1/20にまで減少したと推計されています。1949年、中国経済の世界シェアは5%にも届かず、国民総所得は当時のレートで239億ドル、人口5億4,000万人とすると1人あたり44.26ドルとなり、これはアメリカの1/20、イギリスの1/11、フランスの1/6に過ぎませんでした。

 中華人民共和国成立の当初、弱い工業基盤を目の当たりにし、毛沢東主席は嘆きました。「今私達が作れるものは何ですか?机や椅子、茶碗やティーポットが作れます。食糧が生産され小麦粉が作れます。紙も作れます。しかし、自動車、飛行機、戦車、トラクターなどの物は、まだ作れません。」

(つづく)


<プロフィール>
律 桂軍
(りつ・けいぐん)
1967年生まれ。99年中華人民共和国駐日本国大使館アタッシェとして着任。以後、中国外交部アジア局処長(課長)、駐日本国大使館参事官、外交部アジア局参事官、駐シドニー総領事館副総領事、駐日本国大使館公使参事官を歴任。2020年6月、駐福岡総領事に着任。

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