2024年04月19日( 金 )

愚の骨頂、ウクライナと南シナ海問題を同列視した安倍首相(5)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

副島国家戦略研究所(SNSI)中田 安彦 氏

img_sea 南シナ海の問題は国際法解決のついていない、中国、台湾、ベトナム、フィリピンなど複数の国がそれぞれ領有権を主張する問題であり、ウクライナ問題はウクライナとロシアの勢力圏争いの問題だ。安倍晋三首相は南シナ海問題を地政学的な緊張として理解させたいのだろうが、2つは違う問題だ。そもそもウクライナは実際に内戦に突入しているけれども、南シナ海の問題はまだそのような衝突も起きていない。そういう状況下で、このような同列化をするのは危機を助長する以外の何ものでもない。
 強いて言えば、この2つの問題で共通しているのはアメリカのネオコン派やヒラリー・クリントン国務長官に代表されるタカ派が争いを深刻化させていることくらいだ。

 そして、この南シナ海とウクライナのリンケージという視点を安倍首相に提供したのも、おそらく、ウクライナ政変仕掛人のひとり、ジョン・マケイン上院議員だろう。というのは、マケイン上院議員はウクライナ同様に、今年の2月くらいから中国の南シナ海の海洋進出についても、岩礁の埋め立てに対し「国際社会への直接的な挑戦」であり、阻止のため包括的戦略を策定するよう米政府に求めているからだ。マケイン上院議員は2013年秋から14年の初頭にかけてユーラシア紛争を仕込み、その後、14年夏頃には中東でイスラム国台頭を演出し、今年始めになって中国の海洋進出問題をクローズアップさせるという動きをしている。ロシア、中国のようなユーラシアの国々を軍事的に封じ込めることが狙いだろう。
 シリアとイラクでのスンニ派の過激派であるイスラム国やその他の勢力を、アメリカが育成している。それは、シリアのアサド政権とイランのハメネイ政権のバックにはロシアがいるからだ。冷戦の闘士であるマケイン上院議員は老いてなお、自由主義を広める戦いを主導しているということだ。しかし、これは世界中に紛争のタネを撒いているというだけの無責任な行動である。

 現在は米上院の軍事委員長である軍需予算を取り仕切る立場にあるジョン・マケイン上院議員が、南シナ海問題で中国とアメリカの緊張関係を増幅させ、その結果アメリカの軍需産業に回る予算を増やそうとしていることについては、様々な状況証拠がある。例えば、CSISの写真公表後にマケインら一部議員は米海軍が主催する2016年環太平洋合同演習(リムパック)への中国の招待を撤回するよう求める書簡をカーター国防長官に送っている。マケインがまたしても軍事的緊張をあおっているわけだ。

 偶然というべきか、日本の、ジョン・マケインともなかなか親しい民主党の長島昭久衆議院議員も南シナ海の問題に関心があり、安保法制特別委員会の国会審議がもっぱら中東ホルムズ海峡での機雷掃海についての憲法解釈で喧々諤々の議論となっているなか、国会質問の際、南シナ海で紛争が発生した場合、集団的自衛権の要件となる「存立危機事態」が適用される可能性について追及した。ただし、これに対して中谷防衛大臣が「自衛権行使の新3要件に合致した場合は、法理論上は可能だ」という答弁を引き出した。これは6月9日の「読売新聞」が報じている。

 つまり法理論上は可能ということは、あとは時の政権の判断ということになってしまうのだ。マケイン上院議員らから強く圧力をかけられた場合には、安倍政権が断れるかどうかは甚だ疑問だ。

 また、最悪の「存立危機事態」に至らなくても、その前段階の「重要影響事態(むかしは周辺事態とよんでいた)」に該当するような緊張が発生すれば、政府の政策判断で、新設される自衛隊法95条の2「武器等防護(アセット防護)」の考えに基づいて、米軍や自衛隊の武器等を守るという名目で自衛のために反撃できる仕組みが作られてしまっている。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
(4)
(6)

関連キーワード

関連記事