2024年05月23日( 木 )

農地転用は開発用地捻出の“切り札”となるか?(4)

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農地転用をともなう土地区画整理事業

 ただし、農地転用の許可は市町村の首長が出せても、開発許可は各都道府県知事の判断に委ねられる。そのため、農地転用をともなう開発は許可証の取得から着工、竣工まで、数年単位にのぼる。とくに、地権者との関係性の構築から用地買収にともなう交渉は長期化を覚悟しなければならない。住宅地開発であれば売り切れるのか、商業施設であれば想定通り集客できるのかなど、企業にとって投資額や費やした時間や労力に見合う成果を得られるか否かは、博打の要素も強く、そう気軽に手を出せるものではない。

 少しでも事業の不確実性を減らそうと考えた場合、企業にとって乗りやすいのが、「土地区画整理事業」だ。地方自治体などが行う公的施行と、地権者や土地区画整理組合などが行う民間施行の場合とがあるが、後継者不在の農地を、地域の活性化を促す土地区画整理事業の土台とすることで、商業施設や、宅地開発とそれにともなう道路、公園整備などを行う。複数の荒廃農地を、一気呵成に企業誘致の場に変えることができる点も、土地区画整理事業の強みだ。また、地権者との交渉や煩雑な事務手続きなども一通り終えた状態からまちづくりに参画できるため、企業にとっても安心感がある。

 たとえば福岡市に隣接し、福岡都市圏のベッドタウンとして人口増が続く粕屋町では、JR香椎線・酒殿駅の南側エリアで農地転用による「酒殿駅南土地区画整理事業」進められている。これは酒殿駅前の約13.3haの元農地で進められている大規模な同区画整理事業で、大手ハウスメーカーを中心とした各社による300戸を超える住宅のほか、コンビニやドラッグストアなどの中小規模の商業施設の開発が進んでいる。駅前という好立地に加え、すぐ近くに大型商業施設「イオンモール福岡」や憩いの場となる都市公園・駕与丁公園もあり、その住環境の良さから新築の戸建住宅の開発なども順調に進んでいる模様。粕屋町の都市計画マスタープランでは、このエリアを「新たな拠点」として位置づけており、粕屋町の今後のさらなる発展への寄与が期待される開発となっている。

JR香椎線・酒殿駅の南側エリアで進む「酒殿駅南土地区画整理事業」
JR香椎線・酒殿駅の南側エリアで進む
「酒殿駅南土地区画整理事業」

 糸島市でも農地を転用して福岡市のベッドタウンとすることで地域活性化を目指し、約20.2haの広大な農地を整備する「前原東土地区画整理事業」が進行。西日本鉄道(株)が事業主として114区画(全212区画)の住宅販売を手がけた「コットンヒルズ伊都の杜」をはじめとした大規模住宅街が整備され、新たなまち「伊都の杜」が誕生したほか、19年3月には新駅となるJR筑肥線・糸島高校前駅も設置された。

大規模住宅街が整備された「伊都の杜」
大規模住宅街が整備された「伊都の杜」

 隣県・佐賀県の基山町も、土地区画整理事業の利活用を積極的に行っている地方自治体の1つだ。基山町は、町内にJR鹿児島本線の駅を2つ擁するほか、町内を国道3号や県道17号(鳥栖筑紫野道路)などの幹線道路が縦断し、長崎自動車道・鳥栖ICや九州自動車道・筑紫野ICにも近いなど、優れた交通アクセスから福岡都市圏および久留米都市圏の双方への通勤・通学が可能な立地で、近年は“ニア福岡”としても注目。同町に注目しているという不動産関連企業からは「複数のICに近く、物流拠点を置くのに申し分ない立地で、18歳までの子どもの医療費完全無償化などで子育て世帯を中心に移住者も増えており、住宅需要も見込まれます。しかし何より、町が開発に対して非常に協力的である点が大きい」という声も聞かれる。その基山町では現在、100区画規模の宅地開発や、新規産業用地の整備、商業施設誘致など、複数の土地区画整理事業が進行。同町の地域活性化や新たな魅力創出のために、農地転用をともなう土地区画整理事業が効果を発揮している模様だ。

産業系の開発がされる予定の基山町・黒谷地区
産業系の開発がされる予定の基山町・黒谷地区
新規の宅地を整備する計画手続き中の基山町・夜水地区
新規の宅地を整備する計画手続き中の基山町・夜水地区

【坂田 憲治/代 源太朗】

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