2024年04月16日( 火 )

コロナ禍のタワマン論再考【1】 タワマンとアンスロポセン(後)

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【コロナ禍のタワマン研究】

感染率と人の密度

 次に、コロナ禍(20年~)の間に刊行された研究のなかから、コロナ禍におけるタワマンの位相について言及しているものを取り上げたい。管見する限り、タワマンに対する評価が分かれているのだが、ここでキーになるのが「居室内密度」だ。なお、論文は筆者が探した限りであることは、ご了承いただきたい。

 鈴木智良氏による世界中の研究を対象にしたレビュー報告によれば、コロナ禍においては高層マンションが立ち並ぶ高密度地区は1戸あたりの面積が広いため、狭小住宅が立ち並ぶスプロール地区よりも、感染率が低かった。また、人口密度と感染率には相関性がある場合もあれば、ない場合もある。このことが示すのは、感染率と人の密度の関係は、人口密度(人/㎞2)だけではなく、建物内の「居住人口密度」「内部居住密度」「施設共有密度」「公共・共有空間密度」を考える必要があるということである(ⅴ)。

 一方で、建物内の居室内密度まで問題としていない場合の報告では、タワマンは防災対策上問題があるので、持続可能ではないという指摘もある(ⅵ)。このことは、人の密度と感染率の関係に関する検討が、都市・地区スケールにとどまっているか、もしくは建物内スケールにまでおよんでいるかによって、タワマンの評価が変わることを示している。

「15分コミュニティ」とは

 それでも、識者はコロナ後に向けてコンパクトシティを推奨していることは、国内外問わず共通している。医療へのアクセス性・感染防止策の徹底度・公共サービスおよび公園へのアクセス性などさまざまな要因が感染率に影響し、かつ徒歩・自転車での移動が推奨されることから、日常生活と仕事が15分圏内で完結する「15分コミュニティ」が提唱され、パリやミラノではすでに都市政策として実装されデザインされ始めているという。

 次に、コロナ禍で問題となった住宅の画一性について取り上げたい。戦後、急速に広まったnLDK住宅において、書斎をもつことは想定されていなかったが、その住宅事情がコロナ禍にぶち当たったとき、リモートワークは家族が同居するリビング・ダイニング、はたまたトイレに押し込められる事態となった。

 松村淳氏・西美沙紀氏による「新型コロナウイルスの流行によるテレワークシフトと〈住宅問題〉」(ⅶ)では、近代における住宅の専用住宅化、戦後の持ち家政策、高度経済成長下の画一的nLDKの普及と記号的商品住宅の行き着いた先として、タワマンが捉えられている。上野千鶴子氏が「母親も働くようになれば、夫が寝るためだけに帰る家なんてもう住めません」と看破し、建築家の黒沢隆氏が「近代住居は、第二次産業を基幹産業とする社会にのみ有効なのであって、第三次産業を基幹産業とする現代社会にとってその意味をもたない」と指摘したのは、今もって有効そうだ。家族の成員それぞれが個室でプライベート・パブリックを営む「個室群住居」(黒沢隆)、リビング・ダイニング空間に共用廊下と一体となったオフィスを組み込んだ「東雲キャナルコート」(山本理顕)といった、戦後の「画一的nLDK住宅」を打破する建築的実践は、試みられているものの極めて限定的である。

(ⅴ) 鈴木智良「ポストコロナのレジリエント(強靭)な都市づくり:主に都市計画の観点から」開発協力文献レビューNo.16、JICA、2022-03
(ⅵ) 谷口守・岡野圭吾「分散型国土とコンパクトシティのディスタンス〜covid-19下の国土・都市計画に対する試論」土木学会論文集D3(土木計画学)2021年77巻2号、土木学会、2021 ;小宮朋弓・隈藏雄一郎・藤田博樹「Withコロナ・カーボンニュートラル時代における政策立案の際の視点」JICEReport no.39, 国土技術研究センター、2021-07
(ⅶ) 松村淳、西美沙紀「新型コロナウイルスの流行によるテレワークシフトと〈住宅問題〉:日本の住宅の硬直性と画一性がもたらすリスクについて」関西大学社会学部紀要135号、関西学院大学社会学部研究会、2020-10


<プロフィール>
角 玲緒那 氏角 玲緒那
(すみ・れおな)
1985年北海道生まれ、札幌市立高等専門学校、九州大学21世紀プログラム、九州大学芸術工学府博士後期課程単位取得退学。専門は建築。現在は歴史的建造物の保存修復に従事する。2022年4月からは、北海道小樽に拠点を移して活動している。

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