2024年05月13日( 月 )

脱「受注型」、自ら企画する建設業がこれからの地方創生を担う(後)

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 従来の受注型を脱して、自ら仕事を企画しつくり出す建設業となることで、地域が元気になるまちづくりを目指すことを目的として、今年3月に設立された「新・建設業 地方創生研究会」。6月16日に東京都内で開催した第1回オープンセミナー「地方創生の担い手」にはオンライン含め約150名が参加した。これからの時代、元気で魅力のあるまちづくりにはどのような視点が必要なのか。

次世代建設業の姿を探る

 安成氏、(株)ナウキャスト取締役会長・内閣府経済財政諮問会議「国と地方のシステム」ワーキング・グループ委員・赤井厚雄氏、青木氏、藻谷氏、麗澤大学客員教授・(一社)不動産協会副理事長・内田要氏により、「次世代建設業の姿を探る」をテーマにした座談会が行われた。

座談会の様子(左から安成氏、赤井氏、青木氏、藻谷氏、内田氏)
座談会の様子
(左から安成氏、赤井氏、青木氏、藻谷氏、内田氏)

(1)地域の魅力を強める「場の力」

 青木 弱い需要をうまく集め、空間づくりをすることで、人が訪れて互いにつながり、空き地や空き家を何とかしようという意識も生まれるため、「場の力」を築くことは意味があります。いい事例を見たときに、どういう力があり、どのようなデザインに支えられているかを見極めることが大切です。

 赤井 地方創生は既存事例の真似をして横展開してきたため、同じような施設が広がりました。しかし、場の力が生まれる背景は、地域の条件や環境によって異なるため、地域の特性に合うものをつくることが大切です。地域の建設業は今後、何ができると考えていますか。

 安成 地域によって差がありますが、地方の建設業は建設投資がピークを迎えた1996年当時から仕事が半減した流れのなかにいて、いまだに苦労しています。人口減による町の活力が低下するなか、新たな地域循環型経済を考えるうえで、建設業が受注型から企画提案型に転換することは大きな意味があります。

(2)地域を元気にする官民連携とは?

 内田 PPP/PFIは行政の公共投資に対する負担が減り、自治体の技術系職員が減った行政で手に負えない整備に対して民の力を借りられること、まちづくりに対して民間の知恵を借りられることという点で、行政と自治体が相互に補完できることがメリットです。

 赤井 人口20万人くらいの中都市のPPP/PFIでは、自治体にノウハウが蓄積されていないため、ノウハウがある施主が自治体と提携するのが自然な方法でしょう。

 藻谷 行政は不測の事態を懸念して、何もしないという消極的な姿勢になりがちです。オガールプロジェクトは岡崎建設(株)・岡崎正信氏の信用やネットワークがあったからこそできたもので、このような特殊な事例からどう広めるのかが課題です。事例が一定数を超えると急激に多くの自治体に広まるため、この水準を超えることが肝心です。

 青木 魅力的な自治体と残念な自治体の差が大きくなりました。まちづくりについて積極的に活動している自治体のまちづくりのブートキャンプでは、すぐに皆に相談できるネットワークが機能しています。オガールプロジェクトは藤原孝前紫波町長が信念をもって取り組み、東洋大学の投資もあったため、役場の人との間に科学反応が起きた事例ですね。

 内田 結局、自治体のトップ次第ですね。

 安成 PFIにおける審査は多くの地方自治体では、比較的形式的な審査にとどまり、その施設が民間資本だけでなく民間活力をも生かして実行されるにはもっと事前事後の協議が必要だと感じます。まちづくりについて積極的な議論をする土壌のない自治体もありますので、活力を生かす仕掛けについて議論する必要があるわけです。幅広い人脈を持つ地域建設業がその部分でその役目を意識するためにも建設業が業態転換をすべきであり、まさに「夜明け前」と思います。

 赤井 6月7日に閣議決定された「骨太の方針」では、今後5年間をPPP/PFIの活用期間として幅広い自治体の実施を促すこと、人口の少ない場所に公共事業だけでなく民間の資金で集中的に投資するとされますが、この方針が官民連携の後押しになるでしょう。

 内田 コロナ禍で、人が触れ合う場も必要であるとともに、会議などオンラインでできることもあると認識され、都市だけでなくさまざまな場所でそこにふさわしい仕事をするという需要が出てきています。

 赤井 働き方や住む場所など環境が大きく変わり、民が官の領域に踏み込んでいくことが求められる時代です。

岩手県の複合商業施設「オガール」
岩手県の複合商業施設「オガール」

(3)新しい時代を生きるには?

 藻谷 インバウンド需要を見ると、中国以外の国からの観光客が戻るのは早いでしょう。中国や台湾、香港の観光客が次に狙うのは「住む」ことで、日本に短期でも定住したいから家がほしいという需要は必ず増えるはずです。外国人が購入できるのは建物のみで土地は不可というシンガポールのようにしっかりした法規制をつくる必要があります。非常に多くの外国人が、大都市より田舎に住みたいと考えています。日本は、アウトドアを楽しめる自然豊かな場所でもコンビニがあって買い物ができます。空港が遠すぎず電車が通っていれば、外国人には不便さは感じられないようです。

 内田 人口減少時代は、裏を返すと遊休資産が豊富にあるということです。空き地や空き家を地域に生かす仕組みをつくり、成功した事例もあります。

 青木 人口減少時代のまちづくりは地域によって背景や環境が異なるため、行政による安直な横展開は控えるべきでしょう。現場を個別に見ていくと大きな流れを感じます。地域のネットワークをつくり行動に移すことが大切です。

 安成 第二次世界大戦後、欧州は町の歴史的建物や景観を再生しましたが、日本は「洋風を追いかけ偽物の町」となってしまい、このままでいいのかと懸念してきました。中心市街地が衰退している今、まちを再構成するチャンスです。しかし自治体に予算がある地域は行政主導で再生ができますが、そうでないまちは賑わいを取り戻すことができなく可能性があり、企画提案型建設業の存在がますます大きくなると思っています。

 赤井 地域の情報を身に付けて、行政との組み方を工夫していく必要がありますね。

(了)

【石井 ゆかり】

(前)

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