2024年05月20日( 月 )

鉄道事業の未来(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

運輸評論家 堀内 重人

 2021年10月に発足した岸田内閣は、「新しい資本主義」を掲げた。その重要な柱の1つが、国が主導する「デジタル田園都市国家構想」である。同構想では、デジタル技術を活用して地方を活性化させることで、誰もが何処に住んでいても、豊かな暮らしを営むことができる社会の実現を目指している。

 具体的には、光ファイバのユニバーサルサービス化、高速通信手段である5Gなどの早期展開、データセンターの首都圏以外への地方分散、日本周回の海底ケーブル「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」の整備などの施策を推進するという。

 このような構想が打ち出されると、今後の鉄道事業の在り方も大きく変化する。その変化は大きく3つに分かることができる。1つが「デジタル化」、次が「観光立国」、そして「ドローンの活用」である。

 すでに20世紀から、いわゆる「新交通システム」では無人運転が実現している。シンガポールの地下鉄北東線は、完全に無人運転の地下鉄として営業運転を行っている。
 日本では今のところ無人運転の地下鉄は存在していないが、都営地下鉄大江戸線ではATO(Automatic Train Operate:自動列車運転装置)による運転が実現している。この場合、乗員は運転士ではなく、監視員として装置の監視を行っている。

 これらの自動化や省力化は、今後、少子高齢化や人口減少社会を迎えるにあたり、ますます進んでいく。また、地下鉄や新交通システムだけではなく、最高速度505km/hで走行するリニア中央新幹線(写真1)は、無人運転が実施される。

写真1:リニア中央新幹線
写真1:リニア中央新幹線

 リニア中央新幹線は、ある面ではデジタル技術を駆使した最たる交通機関であるかもしれない。現在、品川~甲府付近を経由して、中央アルプスをトンネルでぶち抜き、飯田付近を通り、名古屋までの区間が工事中であり、当初は2027年の開業を予定していた。

 開業すれば、品川~名古屋間が40分で結ばれるため、両都市が通勤・通学圏になる可能性もある。名古屋から先の新大阪までは2037年の開業を予定しており、開業すれば品川~新大阪間が67分と、現在の「のぞみ」の半分以下の所要時間となる。テレワークの普及やサテライトキャンパスが普及したとしても、商談の際はお互いに顔を合わせないと、信用が得られない。また重要な情報は、実際に会ったうえで確認する必要もある。

 それゆえビジネスの需要の一部はなくなる可能性もあるが、移動自体はなくならない。

 反対に、リニアが開業すると、山梨県の人がリニアと東海道新幹線を乗り継いで、甲府から熱海へ出掛ける需要や、新大阪からリニアに乗車して甲府まで行き、そこから高速バスに乗り換えて、軽井沢へ行く需要などが生まれたりする可能性もある。

 JR東海にとって、現在の飯田線や身延線は不採算路線。経営面ではお荷物的な扱いであるが、リニアと接続することで、飯田線沿線の湯谷温泉や佐久間ダム、身延線沿線の下部温泉などを訪問する人が増えて、これらの両線が活性化することも考えられる。

 だが静岡県知事が、大井川水系の生態系が破壊されることへの懸念を示したため、開業がずれ込むことになりそうである。

 リニア中央新幹線では、途中駅のなかには、無人駅も設けられる予定。デジタル化の進展により、昔のように「みどりの窓口」で紙の乗車券を購入するのではなく、スマホで予約を行い、自動改札機にスマホの画面をかざして乗車。そして車内でも、昔のように乗務員による検札もなく、降車駅ではスマホをかざして降車する……というように、発券から乗車、そして降車まで、すべてデジタル化されたシステムになることが予想される。

 このように、鉄道界ではデジタル化の進展によって無人化が進んで生産性が向上し、かつてのようにみどりの窓口に行列するような不便さが解消されるのではないだろうか。

 デジタル化とはあまり関係がないかもしれないが、不採算なローカル線の維持に関しては、従来の独立採算の原則が崩壊し、「交通税」などを活用して公的補助で維持することが一般的になっていくように感じる。

 現在は、花形産業である自動車産業だが、今後主流になる電気自動車は部品点数が大幅に少なく、産業としての裾野は狭くなる。税金の面からも、自動車に課せられるのはガソリン税ではなく、重量税や自動車取得税が主となる。これらの一部が「交通税」となって、地方の鉄道を含めた公共交通を支える財源になると予想する。

(つづく)

(1)
(3)

関連記事