2024年05月11日( 土 )

歴史が息づく商都のオリジン「博多部」(前)

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出来町公園の休養施設が頓挫、コロナ禍なども逆風に

 博多旧市街プロジェクトは、中世最大の貿易港湾都市であった都市の中心地域である博多部において、価値ある資源をストーリーと街並みでつなぎ、市民や観光客が認知し楽しめる環境を整え、魅力も高めていくというもの。世界中の多くの都市で歴史が息づく街「旧市街(オールドタウン)」が観光名所として都市の観光を牽引していることもあって、福岡市においても「旧市街」である“博多部”の歴史・伝統・文化を際立たせることで、福岡市の魅力を高める取り組みを官民の連携によって街全体で推進していくことを狙いとしていた。施策パッケージは、①「博多部の魅力をストーリーでつなぐ」、②「博多部の魅力をまちなみでつなぐ」の2つで、具体的な中身は、歴史資源の発掘とストーリーづくりや歴史・文化に配慮した道づくり、観光案内板や都市サインの改修、PR・情報発信の強化、民間プレイヤーによる海外向け観光商品販売、オープントップバス「博多旧市街コース」の検討、海外有名旅行サイトとの提携・販売ルートの確保など。スタート当初はまだ博多コネクティッドが始まっていなかったこともあり、天神ビッグバンと対をなす重要なプロジェクトとして位置づけられていた。

 プロジェクトの第1弾として、博多駅北西に位置する「出来町公園」のリニューアルが17年12月11日に完了した。同公園は1965年に開園し、87年に再整備がされた6,673m2の広さの街区公園。オフィスビル街における休息の場として活用されていたほか、旧博多駅を偲ぶ動輪のモニュメントが設置され、周辺観光におけるスポットの1つとされていたが、ある時期からはホームレスの溜まり場ともなっていた。また、07年度からは「博多駅地区緊急浸水対策工事」のために公園の一部占用が続いていたが、13年に工事が完了したことから公園の再整備に着手。再整備にあたっては地域から要望書が提出され、「町内行事を想定した土の広場」「観光バスの乗降場」「承天寺通りに面する観光広場」「駐輪施設」を配置することにより、公園を中心とした御供所地区のにぎわい創出に加え、公園利用者や観光客の利便性向上などが図られ、16年5月から再整備工事が進行。リニューアルオープンした出来町公園は、博多旧市街におけるJR博多駅側の観光・回遊拠点と位置付けられ、約2億円をかけて新たに多目的広場と観光バス6台分の乗降スペースなどが整備された。

出来町公園
出来町公園

 さらに、同公園内で整備が予定されていた休養施設などの設置・管理運営事業の優先交渉権者として、18年2月に(株)TATERU(現・(株)Robot Home)が選定された。同社による「IoT を活用した新たなまち歩き観光体験」や「周辺の寺社群を意識した施設デザイン」「既存イベントとの連携」などの提案が評価されたもので、同年3月には市と同社が基本協定を締結。当初は18年9月ごろに着工し、19年4月ごろに休養施設の供用開始予定となっていた。

 ところが、18年8月末に発覚した顧客の預金口座残高改ざん問題を理由として、TATERU側が市に対して10月30日に協定解除の申し入れを行い、同日解除となった。その後、予定されていた休養施設などの再度の公募は行われず、施設予定地には何も建つことはなく、空き地のまま放置。現在は、シェアサイクル「チャリチャリ」のポートとして活用がされている。

 この休養施設整備の頓挫だけが原因ではないだろうが、その後の国際情勢の変化によるインバウンド終息や、20年からのコロナ禍などの影響も受けて、博多旧市街プロジェクトの動きも徐々に失速していった。とはいえ、19年に櫛田表参道(大博通り~櫛田神社、約230m)および御供所通り(約600m)で石畳風舗装工事が行われたほか、21年11月には音声ARを使ったまち歩きガイドコンテンツや新たな観光情報発信サイト「Fukuoka360°」などのサービスがスタート。さらに今年4月には福岡市地下鉄空港線「祇園駅」の副駅名を「博多旧市街口」と決定し、駅構内の案内サイン等の改修が行われるなど、ハードとソフトの両面での各種取り組みは行われている。しかし、先に述べたようなコロナ禍の影響による国内外の観光客減などもあって、博多旧市街プロジェクトの動きにはあまり日が当たることなく、現在に至っている。

副駅名「博多旧市街口」が付けられた地下鉄祇園駅
副駅名「博多旧市街口」が付けられた地下鉄祇園駅

【坂田 憲治】

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