2024年04月20日( 土 )

米中間選挙後も混乱と分断が加速するアメリカ(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

トランプ氏、2024年の大統領選に出馬表明

 現地時間11月15日の夜、トランプ前大統領はフロリダのマール・ア・ラーゴにて「アメリカを復活させるため、2024年の大統領選へ出馬する」と正式に表明。しかし、これまでの傍若無人とも揶揄されるような熱気あふれるスタイルとは違い、1時間近くの演説はプロンプターを読み上げる時間が長く、エネルギー不足を感じさせました。インドネシアにいたバイデン大統領も、トランプ氏の勢いのなさにほっとしたようです。

 去る11月8日、アメリカでは大統領の前半の実績評価とされる中間選挙が行われました。事前の下馬評ではバイデン大統領の率いる民主党は上下両院で議席を失い、共和党に議会の多数派を奪われる可能性が高いといわれていたのです。

 その最大の理由は、加速する一方のインフレやガソリン価格の高騰に対して、バイデン政権が有効な手立てを講じていないからというもの。何しろ、半数の国民が物価高の影響で健康にまで不安を感じている有り様。インフレ上昇率が8%を超えていれば当然のことと、大方が民主党の大敗を予測していました。

 具体的にいえば、有権者の37%はストレスに悩まされ、21%は健康的な食事がままならない状況下で、タバコとお酒に過度に依存するようになっているのが今のアメリカです。

 そのため、今回の中間選挙において、大きな争点は「インフレ、犯罪、移民」の3つに集約されると目されたものです。

 実際、ブルームバーグは「23年に不況に突入する」という予測を公開。なかには、「中間選挙の前後にアメリカ発の株価の大暴落が発生する」と警告を発する専門家も出てきました。こうした危機的状況にもかかわらず、アメリカの政治家は民主、共和を問わず、相手を非難することばかりで、問題の解決に本気で取り組む姿勢が感じられないというわけです。

 バイデン大統領もトランプ前大統領も、「選挙が公正に行われていない」と投票日の前から無効を示唆する発言をしていました。実際、接戦となった選挙区が多く、上下両院とも僅差で勝敗が分かれた選挙区、はたまた50%を超える得票が得られず12月に決選投票が行われる事態に直面した選挙区まで出ています。

 そのため、とくに共和党のトランプ派からは「不正選挙だった。票の数え直しが必要だ」といった声が挙がる有り様です。こうした状況では、先の大統領選もそうでしたが、選挙の有効性が問われるのみならず、有権者が投票の意義を感じなくなることが懸念されます。

アメリカを代表する企業が中国企業に

米中関係    日本でも政治離れや選挙への無関心が広がっていますが、アメリカでは候補者や選挙管理委員会のスタッフが襲撃を受け、なかには殺害されるような事件が相次いでいます。民主主義の根幹たる選挙が成立しなくなりつつあるわけです。その背景にはアメリカ経済、そしてアメリカ企業の衰退という現実が隠されています。

 たとえば近年、誰もが知っているような大企業が相次いで中国の軍門に下っているのです。発明王トーマス・エジソンが立ち上げた「ゼネラル・エレクトリック(GE)」は、16年に中国の「ハイアール」に54億ドルで買収されました。同じ年、「ヒルトンホテルグループ」も中国の「HNAグループ」に65億ドルで経営権を譲渡。「AMCシアターズ」も大連の「ワンダ・グループ」に12年に26億ドルで買収され、全米8,200カ所の劇場は中国系企業の所有になっているのです。

 また、世界最大の豚肉生産会社である「スミスフィールド・フーズ」は中国の「双匯国際」に13年に47億ドルで買収されています。「IBM」のパーソナルコンピューター部門は05年に「レノボ」によって12億5,000万ドルで買収されてしまいました。

 いずれもアメリカを代表するブランド企業ばかりですが、今やその実態は中国企業になっているのです。これらは氷山の一角に過ぎず、アメリカの主要企業が次々と中国に押さえられてしまい、アメリカ人の雇用が危機的状況に陥ってしまったのです。

 最も衝撃的だったのは「マイクロソフト」でしょう。誰もがビル・ゲイツの会社と思っているに違いありませんが、16年に少なくとも電話事業は3億5,000万ドルで中国の「FIHモバイル」に買収されました。同社の4,500人の社員は中国人のトップの下で働いているのが現実です。

 要は、アメリカ経済や雇用を支えてきた基幹産業が、すでにかなりの数、中国の影響下に入ってしまったと言っても過言ではありません。有効な経済対策を打ち出せず、自国企業を守れないアメリカ政府に国民は愛想をつかすばかりなのです。バイデン大統領は製造業を中心に新規雇用を70万人も増やしたとPRしていますが、何とホームレスの数はそれをはるかに上回るペースで増えているのです。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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