2024年04月28日( 日 )

救世主になるのか~ウクライナ戦争の陰で進む昆虫食と人工肉(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

迫りくる食糧危機

農作物不作 イメージ    世界各地で繰り返される紛争や戦争、そして環境破壊によって、食糧生産にも陰りが見えてきました。これこそ世界の環境学者らが懸念する食糧危機の始まりです。食糧争奪戦争を引き起こす可能性が高まっています。ロシア、ウクライナ両国でこれまで世界の小麦需要の30%を賄ってきていました。それが港湾施設の破壊や経済制裁の影響もあり、輸出がストップしています。

 ロシア、ウクライナに加え、さらに別の原因でも世界の農業大国の多くが危機的な状況に追い込まれているのです。アメリカの場合はエルニーニョによる干ばつが引き金となり、今年だけでも1,402カ所で山火事が発生しています。カリフォルニア州では水不足で農業にも市民生活にも悪影響が出る有り様です。

 インドでは熱波のせいで、北部一帯で気温が45度まで急上昇を遂げています。モディ首相曰く「かつてない危機的状況だ」。中国も豪州も洪水に襲われ、農作物の収穫が激減する事態に直面。とくに中国の場合は深刻で、農業担当大臣曰く「穀物生産は過去最悪で、輸入確保に全力で取り組んでいる」。

 実は15億の人口を抱える中国は大豆の輸入量に関しては世界一なのです。他にも小麦や豚肉なども大量に輸入してきました。ゼロコロナ政策もそうですが、この食糧危機を乗り越えなければ、3期目に入った習近平政権は難しい局面を迎えることになるでしょう。

 それ以外にも、化学肥料不足による植え付けの困難に陥っている国が続発しています。なかでも、中東、北アフリカ、ブラジルなどでは事態の深刻さが際立っており、たとえば、アフリカ35カ国はロシア、ウクライナの肥料に依存してきたのですが、今回のウクライナ危機によって、輸入がストップ。代替先の確保も難しく、食糧難は避けられない情勢となってきました。

 農業大国であるアメリカですら、危機的状況に直面しており、2022年秋は「1930年代以降、最悪の農業生産」に陥ったとされ、小麦の生産量は20%もダウンし、トウモロコシの値段は過去10年で最高値を記録。しかも、食品価格は平均して40%もの値上がりになっており、バイデン政権に対する批判の高まりを加速させています。

 さらに追い打ちをかけるように、アメリカの27の州では鳥インフルエンザに感染したニワトリが急増し、数千万匹が殺処分されてしまいました。その上、各地の食糧備蓄倉庫が相次いで火災に見舞われるという異常事態も発生し、農作物の出荷や輸出が滞るという前代未聞の危機に直面中です。

 そんな食糧危機が迫りくるなか、国際的に関心が高まってきているのが「昆虫食」に他なりません。国連食糧農業機関(FAO)も昆虫食を推奨する報告書をまとめたほどです。それによれば「2050年に世界人口は90億人に達すると予測されるなか、温暖化による異常気象が顕在化しており、温室効果ガスの発生を抑え、地球の負荷の少ない食料としての昆虫食が優れている」とのこと。

高タンパク低脂肪の昆虫食

 ニコール・キッドマンやアンジェリーナ・ジョリーなども昆虫食の普及に一役買って出ています。確かに、昆虫全般に当てはまるのですが、タンパク質を多く含む種類が多いのです。イナゴもコオロギも高タンパク質低脂肪が特徴となっています。それ以外にも、昆虫にはカルシウム、マグネシウム、リン、銅、亜鉛などミネラル分を豊富に含むものがいくつも存在しているのです。また、昆虫はタンパク質に加えて、身体に良いとされる不飽和脂肪酸を含むものが多く見られます。

 FAOの報告書によれば、「昆虫食こそ今後の食料としては最適」とのこと。なぜなら、第一に、飼料変換効率が抜群であるからです。たとえば、牛肉を1kg増やそうと思えば、10kgの餌が必要人なります。ところが、コオロギの場合は2㎏の餌で十分です。しかも、コオロギの可食部率は80%と高く、変換効率で比較すれば牛肉の12倍にもなります。

 第二に、メタンや二酸化炭素など温室効果ガスやアンモニアの排出量が少ないため、地球温暖化に対する抑制効果が期待できるわけです。メタンは牛など草食動物の腸内発酵によるげっぷに多く含まれています。

 第三に、環境汚染の低減や土地や水の節約にも役立つという点が指摘されています。なぜなら、人間の廃棄物で昆虫を育てることが可能であり、廃棄される生ごみを半減させることにもつながるからです。しかも、家畜と比べはるかに狭い土地と少量の水で飼育できる点も強みになります。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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