2024年05月18日( 土 )

【2022年流通・小売業界回顧(1)】コロナ禍で自販機化するリアル店舗 独立小売業は「わざわざの店」づくりを

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 スーパーマーケットでセルフレジが増えている。大きな理由は人手不足だ。時給を上げても人が集まらない。若者人口が減少していることに加えて、新型コロナウイルス感染症拡大による渡航制限で留学生が激減したためだ。このセルフレジ増加の傾向は、当面は続くだろう。店舗のオール自動化といえばアマゾンの小型店舗「Amazon Go」が有名だが、残念ながら思惑通りにはなっていない。同様の試みにトライした世界最大の小売業ウォルマートは、万引きの増加という不都合が表に出て、その展開に躊躇している。

コロナが転換点に

セルフレジ イメージ    この3年間、コロナをきっかけに社会は大きく変化した。まずライフスタイルの変化。人の集団行動が制限され、職場、学校、店舗などの集団が溶け始めた。小売業界も例外ではない。生活に密着する小売業はコロナだからといってその利用をゼロにすることはできないから、飲食、旅館業のように致命的な影響は受けなかったものの、お客の買い物スタイルは少なからず変化した。

 お客は感染の危険を小さくするため、買い物の回数を減らし、2回分を1回で買うことを選んだ。客数は減少したが買い上げ点数が増えたため、売上への影響はほぼ皆無だった。むしろ売上が増加した店も少なくなかった。それでも消費におよぼす社会のネガティブな雰囲気の影響は皆無ではない。その1つが将来の人員確保への漠然とした不安だ。採用がただでさえ容易でない小売業は人件費のさらなる上昇におびえる。小売業の組合が加盟するUAゼンセンはパートの時給50円増を要求する。仕入れ原価の値上がりに加わる新たな試練だ。

小売DXのデメリット

 そんな事情にさらに重なるのがAIによる業務サポートの進化だ。たとえばユニクロでは、商品をレジ横に置くだけで決済が一瞬で完了する。現金もクレジットカードも自由に使えるが、これにスマホ決済が加わった。コンピューターによる販売データの利用に始まったデジタル化は、コロナ感染への不安をきっかけに小売業界で否応なくさらに進行する。

 デジタル化とはそこに携わる人が消えることでもある。小売業における人と機械の違いは小さくない。機械が判断できるのはリアルに存在する商品情報に限られるため、消費者が望む新たなニーズや具体的な要望を集めることはできない。

 小売の場合、未知の情報は既知のそれと同じくらい大切だ。消費者の新たなニーズは既存売り場からは読めないためだ。既知と未知の2つの情報が合わさって、顧客ニーズが売り場で具現化される。傾向を把握することは別として、未知の情報を直接集める作業は機械にはできない。これは小売のDXのデメリットだ。

 加えて従業員と買い物客の間には会話がある。それは時候のあいさつや店の販売や設備、管理などに関するものだ。店はそれらからお客のニーズとウォンツを拾い続けることで、お客からの信頼を高めることができる。店舗現場のDXはそのような流れが停止することを意味する。

 高度成長時代は売り場担当やレジ係は「笑顔で迎え、笑顔で応対し、笑顔で送れ」と教育された。その訓練も頻繁に行われた。しかし、セルフサッカー(袋詰め)台の導入や従業員のパートタイマー化で売り場から人が消えると、これらヒューマンリレーションの手法は消えた。

 人間らしさを一言でいうと他人とかかわることによる感情の交換だ。これはどんな時代、どんな人種にも共通する。売り場の機械化でそうした要素が薄くなる。それにより、お客にとっての店舗および従業員への親和性も低くなる。万引きが増えるのも無理からぬことである。

活路は「わざわざの店」

 そんななかで増加しているのがクレームである。当たり前のことだがお客は対価を払ってモノを買う。当然それに見合ったサービスを求めるため、その水準に至らないとクレームが発生する。しかし、効率とマニュアルに縛られた従業員ではそんな事態にうまく対応できない。納得できないお客は執拗に食い下がり、やがてモンスターと呼ばれるようになる。

 とくに注目すべきは人のサービスが当たり前だと考える高齢者だ。一方、効率性と簡便性、高いハラスメント意識の組織に慣れた若い従業員は、そうした高齢者の要望を異常なクレームと受け取りかねない。正当なクレームを行う人がモンスターに分類され、処理されてしまうことなる。そうなると店舗とお客の関係は断絶する。

 小売業界では1人のクレームが10人に伝わるというのが定説だ。そうなると彼らはオンライン店舗や競合店に流れる。とくに大きな影響を受けるのが地方の中堅小売業だ。人手不足による人件費の高騰とDX投資の発生でピンチに立たされているところに値上げも加わる。これらの課題をクリアするには原点に返るしかない。原点とは売り場と人の原点だ。「気持ちよく来店してもらい、気持ちよく買ってもらい、気持ちよく帰ってもらう」こと。それにはお客が満足する売り場と商品が不可欠になる。「あの従業員がいるから、満足できる商品が多いから」その店に行く。いわゆる「わざわざの店」づくりだ。

 大手の全国チェーンはそのような店づくりは向いていない。しかし地方の独立小売業はわざわざの店をつくることで生き残ることができる。言い換えればそれができなければ、力と物量に勝る大手によって淘汰されるだろう。

【神戸 彲】

(2)-(前)

関連記事