2024年06月19日( 水 )

左官の技能・文化を次の100年へ(前)

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(一社)福岡市左官業組合
理事長 平田 雅敏 氏

(一社)福岡市左官業組合 理事長 平田 雅敏 氏

 約1,300年前から日本の建築を支えてきた左官工事。その技術は、その長い歴史のなかで脈々と受け継がれてきた。天然素材の塗り壁は断熱性や保湿性、防火性など優れた機能をもつなど、安全性の高いものとして支持されてきたが、近年では左官職人たちの芸術性の高さから、ただの仕事ではなく「アート」としても注目を集めている。2022年に設立100周年を迎えた(一社)福岡市左官業組合・平田雅敏理事長に、業界が抱える課題やそれに対する対応策などについて、話を聞いた。

材料・工法を巧みに

 ──建設業に関わらない人にとって、「左官」はあまり馴染みのない仕事です。

 平田 左官工事とは、建築物の壁や床、天井にコンクリートやセメント、モルタルなどで下地をつくり、脛壁や漆喰仕上げなどを施すことで、壁や床の最終的な表面を仕上げる工事です。左官の歴史は古く、約1,300年前から存在します。神社・仏閣など、歴史的建造物をイメージしてみてください。現代建築で多く使われるセメントが登場するまでは土壁が基本で、大工と左官職人で建造物をつくっていました。

 傷むイメージのない土壁や塀も、時間経過による「風化」には抗えません。ただ、その風化すらも「味」に変えてしまうという魅力もあるのです。代表的な素材の1つが漆喰です。じわじわと紫外線にあたり、雨風に晒される。それでも白い状態を保つことができるというのが、漆喰の良さです。京都の「銀閣寺(慈照寺)」は外壁に黒漆喰が用いられており、日なかでは黒色に見えますが、夜間の月明かりが池に反射する明かりで銀色に見えることから「銀閣寺」と呼ばれるようになったという話もあります。

左官工事 イメージ ──左官工事は建設業のなかでも、とくに職人色の強いイメージがあります。

 平田 左官工事というと、建物の仕上げとしてコテで壁を塗る印象をもたれていると思いますが、それだけではありません。風呂場やキッチン、洗面所などの壁や床の「下地」をつくる「下地づくり」という仕事もあります。この工程は壁や床の内部の作業となるため、あまり一般的な認知度は高くありませんが、これを十分にやっておかないと壁や設備をそもそもつくることができないので、非常に重要な作業になります。また、仕上げがペンキ塗りやタイルとなる場合、下地の良し悪しが大きく左右します。

 「仕上げ塗り」は、まさに壁などの表面を塗って仕上げる作業です。塗り方によっては耐久性に影響が出るほか、コテの動きがそのまま壁の模様になりますので、職人の技術力や芸術性が表れます。さらには、塗料が渇いてしまう前に作業を完遂させる「仕事の管理能力」や、その日・その場所の天候や気温・湿度を計算して使う材料の配分や作業スペースを変化させる「五感」など、一朝一夕には習得できない技術が求められます。

 仕上げ塗りで使用される主な材料は、「漆喰」です。漆喰は“呼吸する材料”とも呼ばれており、漆喰が空気中の水分を吸収・放出することで調湿し、室内を快適な空間に保ちます。古くは蔵の壁などに使用されていましたが、その快適性、防火性の高さが再認識され、今でも住宅の内装に使用されています。次に「珪藻土」ですが、断熱性や保湿性が高く調湿効果にも優れており、こちらも住宅でよく使われる人気の素材です。

 「土」は和室などで使用され、使う土によってさまざまな個性が出ます。また、「砂」も使うことで滑らかな仕上がりとなり、和室や茶室などに使われることがあります。このように、左官に用いられる材料は自然素材も多く、SDGsとも親和性が高いことから、左官にもこれまで以上に関心が集まっていることを実感しています。

組合発足から100年

左官工事 イメージ ──(一社)福岡市左官業組合について、お聞かせください。

 平田 当組合は、1922年に当時福岡市議会議員を務めていた徳永勲美初代会長の下、業界の発展と会員の融和を目的に任意組合として始まりました。上部団体である(一社)日本左官業組合連合会が設立される15年も前のことです。91年4月には社団法人として法人化(2013年4月に(一社)へ移行)しました。

 私は、任意組合から数えると21代目の理事長になります。現在の組合事業者数は、正会員66名、一人親方会員119名が登録しています。22年に設立100周年を迎え、11月1日には記念祝賀会を行いました。継続年数でいうと全国でも5本の指に入ると思います。

 ──福岡市左官業組合の役割について、お聞かせください。

 平田 当組合の役割は、①左官工事に関する技術および資材の調査、研究・指導、②左官業に関する情報、資料および知識の収集や提供、③職長安全衛生責任者講習会、現代しっくい施工講習会といった各種勉強会の開催―が挙げられます。「若き才能を確保し、育てていくこと」を大きな役割かつ課題としています。

 かつては、ものづくり大国といわれた日本ですが、さまざまな業種で職人が減少しています。さらに、団塊の世代が75歳以上――いわゆる後期高齢者となり、現場から離れ始める「2025年問題」も間近に迫っています。現在の業界を支えてくれているこの世代が一気にいなくなってしまうのは、左官だけでなく、建設業界においても大きなダメージとなります。

 建設業界は「3K」のイメージからなかなか脱却できず、若い入職者が多くありません。このイメージの一新や左官の仕事を身近に感じてもらうため、「こどもおしごと体験」を行っております。このイベントでは小学校高学年を対象に、左官の仕事に実際に触れてもらうのですが、私としては、職業選択が身近になる高校生や専門学校生、大学生まで訴求対象を広げても良いのではと考えています。

    ──組合にも一人親方会員が119名いらっしゃるそうですが、一人親方についてお聞かせください。

 平田 約30年前のバブル崩壊にともない倒産が増えたほか、経営が苦しくなった企業が社会保険費を賄えなくなり、多数の職人が一人親方として独立しました。十分な福利厚生制度を整えるのが難しい、一人親方向けの救済措置として保険システムを推奨した結果、多くの加入申し込みが見られました。建設業界にはさまざまな専門工事者が存在しますが、左官業ほど一人親方保険の加入者が多い職種はないのではないでしょうか。

(つづく)

【内山 義之】


<プロフィール>
平田 雅敏
(ひらた・まさとし)
1958年6月生まれ。93年8月に(株)ヒラタを設立。2016年5月22日より(一社)福岡市左官業組合の理事長を務める。趣味はカメラ、バイクなど。

(後)

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