左官の技能・文化を次の100年へ（後）

（一社）福岡市左官業組合
理事長　平田 雅敏 氏

業界照らす若手職人

    ──若手職人育成のため、技能五輪にも送り出されています。

　平田　当組合でも「どのようにして次世代に技能を引き継いでいくか」が最重要課題となっています。

　若手職人のスキルアップの場となる「技能五輪」とは、中央職業能力開発協会と自治体が共同で毎年開催しているもので、23歳以下の技能者が各職種で技能レベルの日本一を競う全国大会です。2年ごとに世界大会「技能五輪国際大会」も開催されています。22年11月4日～7日に開催された「第60回技能五輪全国大会」には、福岡県代表として当会員の（有）東島技工の佐野竜馬さんが出場し、銅メダルを獲得しました。私自身、佐野さんとの交流があり、仕事の後や休日の時間を使って練習を重ねられていたことを知っていますので、金メダル受賞も夢ではなかったのでは、と思います。この悔しさをバネに、さらに技術を磨いてほしいですね。また、ほかの若手職人も彼に追いつけ追い越せと切磋琢磨してほしいと思います。今大会では女性の方が金メダルを獲得しました。近年、全国的に女性の左官職人も増えており、業界が活気づく足音も聞こえてきました。

　──業界の課題について、お聞かせください。

　平田　1つは「伝統・技術の継承」でしょう。継承には、きちんと伝えていくことが重要です。道具1つをとっても、本来の使い方ができているのかどうか。伝える側も感覚的に扱っていて、基礎がおざなりになっているケースも見受けられます。そのような状態で伝えても、経験が浅い職人は十分に理解することができません。

　伝える側が学び直すことも必要です。この気付きを得たことで、研修を開催する側としての心構えが変わりました。若い世代が左官という専門職を「素敵でかっこいい仕事」と感じ、「一生左官をやりたいよね」と思えるような魅力づくりと環境をつくっていくことに、これからも尽力してまいります。

    また、左官工事に用いられる材料は、人や環境に優しい自然素材でできています。それらの素材を用いてつくる機能壁（水分を吸収・放出するなど機能が優れたもの）は、クロス壁などに比べて価格が高くなります。ただ、クロスは経年劣化が早く、5～10年で張り替えが必要となりますので、長い目で見れば漆喰などの材料は優秀で評価されるべきかなと思います。

    また、国会議員で構成される左官業振興議員連盟のほうでも、「漆喰の需要拡大」をテーマに会合が開かれるなど、漆喰の利用を推奨していただいています。たとえば、建築物に使われるクロスの壁を全体の1割でも塗り壁に戻していこうと、マンションや集合住宅のリノベーションも、最近では塗り壁の導入が進んでいます。

　当組合は先人たちのご尽力により、100周年を迎えることができました。先ほど述べた課題に向き合いながら、これからも技能と文化が正しく受け継がれる組合であり続けることを使命とし、この先50年、100年と続けていけるよう、組合員一同全力で取り組んでまいります。

（了）

【内山　義之】

＜プロフィール＞
平田　雅敏（ひらた・まさとし）
1958年6月生まれ。93年8月に（株）ヒラタを設立。2016年5月22日より（一社）福岡市左官業組合の理事長を務める。趣味はカメラ、バイクなど。