2024年05月20日( 月 )

コロナ療養ホテルにて~約30年の首都圏居住経験者が見る福岡(5)

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変わりゆく天神 イメージ    2022年は公私にわたって、これまでにない大きな変化が見られた1年だった。

 まずは「公」について。2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、欧州では第2次世界大戦以来の本格的な戦争と位置づけられ、中国や北朝鮮など周辺国と緊張関係にある日本にも強いインパクトを与えた。とくに12月16日、政府は戦後、長く維持してきた国家安全保障戦略に修正を加え、このなかで「反撃能力」の保有や、防衛費の倍増を打ち出したのが象徴的だ。ウクライナ戦争の影響は今、エネルギーや食料品をはじめとするさまざまなモノの価格上昇にも表れている。

 国としてはこの他、国力低下が明確に表れた1年ともいえそうだ。その象徴といえるのが1990年以来、およそ約32年ぶりの円安水準である150円台となったこと。年末にかけて円高になり12月26日時点で132円台まで回復しているが、この出来事は従来までの「有事に強い円」というイメージを吹き飛ばしてしまった。安保も経済もそうだが、日本には抜本的、早急な改革が求められているという感を強く受けた。

 余談めいた話になるが、サッカーワールドカップの日本代表の活躍もまた、「大きな変化」と位置づけられよう。残念ながらベスト8進出こそ逃したものの、ドイツ、スペインに勝利し、クロアチアでPK戦にまでもつれ込むという結果は、ワールドカップ開幕前にはほとんどの人たちが期待していなかったことであった。Jリーグを頂点とする組織づくりと選手育成ノウハウなど、長期的視点と一貫性のある取り組みが奏功した結果と筆者には見える。いずれにせよ、国民を勇気づけ元気にする出来事になったといえそうだ。

 さて、筆者は20年以上にわたり住宅業界の動向を取材してきたが、22年はこの分野においても重要な1年となった。というのも、住宅の省エネルギー化に対する社会的な要請の高まりが、より一層顕在化したからである。具体的には「改正建築物省エネ法」が6月13日に国会で可決・成立。これにより、25年度以降、全国すべての新築住宅を対象に省エネルギー基準への適合が義務化されることになった。

 また、東京都において新築戸建住宅への太陽光発電の設置を義務化する環境確保条例の改正案が12月15日に可決、25年4月から施行される予定だ。この動きはおそらく全国に波及する。また、国が普及に注力しているZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)をはじめとする、現行省エネ基準よりハイレベルの住宅仕様も近い将来、義務化されることになるだろう。

 こうした動きは日本のみならず世界において脱炭素化が至上命令になっていることを表し、最早、暮らしの場において1人ひとりがその責任を負わなくてはならなくなっていることを示している。なお、筆者は以上のように全国的な動向についての知識はあるが、九州や福岡の住宅供給において現在、どのような取り組みが行われているか、具体的な事例をあまり知らない。23年は省エネ化を含め、事業者などに数多くの取材をし、記事を提供したいと考えている。

 次に「私」における変化だが、これは何より30年以上ぶりに福岡県民、福岡市民に復帰したことである。そのなかで78歳の母と同居することになり、ライフスタイルを含めた生活環境を大きく変えなければならなくなった。コロナ禍冷めやらぬなかで行動範囲を徐々に広げる必要もあり、いまだ「第二の人生」に慣れきっていない状況だ。23年は本格的に福岡人になるための1年としたい。

 ところで今、筆者はこの原稿を中洲にあるコロナ感染者向けの療養ホテルで書いている。この3年ほどの間、リモートワークを徹底するなどかなり気をつけて生活していたが、ついに感染してしまった。陽性が判明したときには、それこそ「途方に暮れ」た。ただ、4回目のワクチン接種(10月下旬)をしていたからか、高熱を含む重症にはならずに済んでいる。あくまで個人的な感想だが、ワクチン接種には強い効果があると実感できたので、まだ接種が終わっていない方には接種をお勧めしたい。

 熱は退き、咳や身体のだるさもなくなり、間もなく対処できると思われるが、後遺症なのか、頭がボーとして回らず文章がなかなかまとまらない。そのため、連載の最後をこのような内容で終えることとなり、関係する皆さまに迷惑をかけてしまった。この場を借りてお詫びをしたい。

 療養施設での生活は単調で思うようにならず不自由だが、アテンドをしてくれた県や市の職員や、ホテルを運営されているスタッフの方々にも感謝しなければならない。さまざまな問題がある日本だが、こうした円滑なシステムづくりができること、縁の下の力持ちとなっている関係者の存在は明らかに日本が世界に誇れることだ。そんなことを気付かせてくれるホテル療養生活を経て、筆者の変化が大きかった2022年は終わろうとしている。

(了)

【住生活ジャーナリスト/田中直輝】

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