2024年05月13日( 月 )

「情報革命の資本家」孫正義氏 ファンド戦略が行き詰るも再起できるか(前)

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 ソフトバンクグループ(株)は投資戦略を「封印」する。近年は人工知能(AI)のスタートアップに相次ぎ投資し、一時は巨額の利益を計上したが、世界的な経済情勢の不安を受けて新規投資を見合わせるという。孫正義会長兼社長の経営者=投資家人生の集大成だったファンド戦略は行き詰った。「情報革命の資本家」を自称する孫正義氏は、2023年に再起できるだろうか。

決算説明会の異変 孫氏が途中退席

孫 正義 氏    2022年11月11日、東京都港区のソフトバンクグループ(株)の本社において22年4~9月期の決算説明会が開かれた。報道各社は、グループの総帥である孫正義会長兼社長(65)の異様な行動について報じた。

 孫氏は説明会で「決算発表でのプレゼンを私がするのは当面の間は今日が最後。最後のメッセージにしたい」と語った後、業績についての説明は後藤芳光・最高財務責任者(CFO)に任せて、途中で退席したという。

 孫氏が決算の説明を自ら行わなかったのは初めてのことだ。従来は業績の好不調にかかわらず、四半期ごとの決算説明会において自らの言葉で説明するとともに、記者からの質問にも答えてきた。「朝日新聞デジタル」(22年11月11日付)は次のように報じている。

 孫氏は30分間弱のあいさつで、傘下の半導体設計大手・英アームの事業に「没頭する」との意思を表明。市況が好転する兆しが見えないなかで、投資会社でありながら新規投資を控えざるを得ない「守り」の経営を続けるには、財務を担当する後藤氏が決算説明することがふさわしいとも説明した。

 「私は攻めの男」「(現状は)力をもてあます」とも語り、孫氏の「目利き力」でさまざまな企業に投資する投資会社としての在り方が、曲がり角にあることがうかがわせた。

 孫氏が決算説明会から途中で退場したことがネットで報じられると、騒然となった。さまざまな観測が飛び交い、なかには、「稀代の錬金術師もついに年貢の納め時か」「銀行管理の運命か」という論調のものも見受けられた。

孫氏の個人負債は日本円換算で6,800億円

 「攻めの男」を自負する孫氏。どこで「目利き力」が狂ったのか。

 米通信社ブルームバーグ(22年11月18日付)は

ソフトバンクグループの孫会長兼社長の個人負債が、合計47億ドル(当時の為替レートの1ドル約140円で換算すると約6,600億円)に上ると英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた。

 と伝えた。

 ソフトバンクGの上場株投資運用子会社「SBノーススター」の損失を考慮すると、現時点でその数字になるとのFTの照会に対し、ソフトバンクGが確認した。

 ノーススターの投資損失は9月末時点で合計60億ドル(同、約8,400億円)近くに上り、孫氏が損失の3分の1近くを個人的に負担する必要があるという。

ソフトバンクグループが本社を置く東京ポートシティ竹芝
ソフトバンクグループが本社を置く
東京ポートシティ竹芝

    孫氏は投資事業で自身のコミットメント(関与)を明確にし、リスクとリターンを共有するため、スタートアップ企業に資金を投じる「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」2号ファンドと「ラテンアメリカ・ファンド」関連で株式の17.25%をそれぞれ保有している。だが、孫氏は現金で支払いを行っておらず、多額の未決済残高が存在すると報じられている。

 ソフトバンクGの22年4~9月期の決算短信によると、9月末時点の孫氏の未払い金は、それぞれ人工知能(AI)関連の未上場企業に投資する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド2号」で約4,100億円、「ラテンアメリカ・ファンド」で約360億円、上場株に投資する「SBノーススター」で約2,300億円にのぼる。計約6,800億円。孫氏は、個人として約6,800億円の未払い金を会社としてのソフトバンクGに対し抱えていることを開示したのだ。

グループの自社株買いで孫氏の保有比率が上昇

 孫氏は巨額の未払い金をどうやって弁済するか。アナリストからは「遠くない将来MBO(経営陣による自社買収)で企業の在り方を見直す可能性がある」と指摘する声が挙がっている。

 ソフトバンクGの社内では、数年前からMBOについての議論が幾度も行われてきた。推進派は非公開化により規制当局や投資に関する株主の監視から解放されると主張しているが、一方で側近の多くは反対しているという。その理由は、非公開化には多額の資金が必要なため、資金不足になるというものだ。MBOの対価については6兆9,000億円と試算されている。

 ブルームバーグ(22年12月8日付)は、

 7日時点の孫社長と同氏の関連会社のソフトバンクG株の持ち分は約33.4%と9月末の31.5%から上昇。ソフトバンクGへの取材によると、孫社長の親族企業などを含めると34.2%に達するという。2019年3月末時点では26.7%だった。

 と報じた。

 ソフトバンクGは、株主還元の拡充を理由に、21年11月と22年8月の2度にわたり自社株買いを発表。買い付け枠は1回目が最大1兆円、2回目が最大4,000億円だったが、いずれも期限内に使い切った。

 ソフトバンクGが大規模な自社株買いを実施した結果、市場で流通する株式が減り、孫氏の保有比率が相対的に上昇したのだ。

 株式市場では、自社株買いを孫氏によるMBOに向けての布石との観測が駆けめぐる。ソフトバンクGが自社株買いを進めることで孫氏などの保有比率を3分の2超まで高めれば、株式併合により少数株主を排除することができるからだ。

 ソフトバンクGは、アリババ集団株の放出や資産売却を進めており、その現金収入で自社株買いをしている。遠くない将来、MBOを実施することによって、ソフトバンクGは非上場企業となり、文字通り、孫正義氏のワンマンカンパニーになるだろう。

 23年、ソフトバンクGはさらなる自社株買いを実施するか。これが、ソフトバンクGがMBOに向かうかどうかの判断材料になる。最大の注目点といってよい。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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