2024年04月16日( 火 )

「15分都市」という都市計画理論(前)

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 前回の記事(「コロナ禍のタワマン論再考【1】 タワマンとアンスロポセン(後)」)で、アフターコロナの再開発を展望するにあたって、「15分都市」(15-Minute City)という新しい都市計画理論が注目されていることを紹介した。日本でも2021年ごろから言及されている理論であるが、その15分都市理論の大元となったパリ大学の都市理論家カルロス・モレノ氏の論文を詳しく紹介した記事が日本でまだ見当たらないので、本稿では21年のモレノ氏らの論文(ⅰ)を紹介し、日本における理論展開と実装の可能性について言及したい。

20世紀モデルからの脱却

15分都市 イメージ    15分都市を要約すると、15分以内に徒歩ないし自転車で生活に必要な都市アメニティに接続する、その理論的モデルである。都市アメニティとは、生活・仕事・商業・医療・教育・娯楽の6つに関連する諸施設を指す。モレノ氏は2016年にこの理論を提示し(ⅱ)、その後パリで実装された(ⅲ)。ボルドーやメルボルン、シンガポールなどでも同様の取り組みが始まり、WHOやUN-Habitatなどの国際機関も注目するに至っている。21年にはコロナ禍での経験を踏まえて、より詳細なコンセプト・ペーパーが提示された。本稿で紹介するのもその論文である。

 論文はまず、自動車に依存した20世紀以降の都市モデルを批判し、社会生活にとっても地球環境にとっても持続不可能であると強調する。車の出現によって世帯あたりの支出(車の購入費・維持費)は増え、同時に通勤時間も増えた。これは心理的・社会的な負担であり、時間と経済のロスである。この長時間の移動を前提とするモデルは、都市のスプロール化を促し、エネルギーの使用を増やして大気汚染をもたらし、スプロール化が広がれば広がるほど生物多様性を破壊する。これは目下の気候変動の要因となった。そしてこの車に依存するシステムは、一度動き出すと止まらない。

 しかし、コロナ禍でこの車社会の都市機能は麻痺した。都市のロックダウンは直ちに生活物資の不足と大量の失業者を生み出し、都市において健康の維持と社会経済活動が対立する状況を生み出した。このことからも、居住地の近隣ですべての都市アメニティに接続し、社会・経済・文化活動を維持することができる新たなモデルが必要とされるというのだ。苛烈なロックダウンが何度も実施された欧米において、なおさら差し迫った事態として著者に記憶されているはずである。

コロナ禍の欧米の都市

イメージ    この「近隣で」という枠組みに具体的な「何分以内に」という時間のリズムを加えた都市研究領域が、「クロノ・アーバニズム」として成立している。著者らがここで注目するのが、自転車と徒歩、小さいキオスク、つまり都市のウォーカビリティの促進と軽量なインフラである。

 車依存型都市においてはすでに道路が整備されているにも関わらず、車のない住民は量販店に行けない事態が発生するなど、都市サービスのボトルネックが発生する。対して、コロナ禍においてはベルリン・北京・ニューヨークなどの諸都市で自転車の使用が急上昇し、自転車レーンが各地でつくられた。合わせてオランダなどでは小さいキオスクが街角に設置されて、公園などの公共空間の使用者も増えた。混雑が減ってソーシャルディスタンスが保たれ、徒歩・サイクリングと相まって健康にも寄与する。併せてシェアサイクル、宅配などのデジタル技術が普及し、都市の新たな経済エコシステムが開発される。それは車社会より社会的不平等が少ない。

 ここにも、著者らが住む欧米の状況が色濃く反映している。欧米では日本のように歩いて15分以内に行けるコンビニのような店舗は少ないし、しかも公共料金の支払いや荷物の発送さえできる小さな公共的キオスクというのも少ない。もっとも日本では、自転車レーンの整備は遅れているのだが…。

 デジタル技術が都市計画を変えていくことは論を俟たないだろう。それは「スマートシティ」というコンセプトとして議論が始まっている。軽量なインフラとデジタル技術の組み合わせによるIoTの整備が、都市の管理者(公民含む)と居住者の相互コミュニケーションを確立し、今までトップダウンだった都市計画が居住者の挙動と意向を反映するインタラクティブなものに移行する。15分都市もその観点においてスマートシティの一端をなし、デジタル技術を主要なアクチュエーターとして成立する。居住者から発せられた情報によって、今まで通過空間であった場所に最適な施設とサービスが配置され、エネルギーが配分される。そうして地区のアイデンティティーも強化され、それがまた人を呼び、ビジネスを生み出す。著者らが強調しているのは、そういった新しい技術と生活リズムを既存の都市インフラ(建物・道路・公園など)を使いながら整備するということである。ジェイン・ジェイコブズをよく引き合いに出すように、巨大開発というのは徹底して手段から除かれている。

(つづく)

ⅰ Moreno,C.、  Allam,Z.、 Chabaud,D.、 Gall,C.、 Pratlong,F.、 (2021). Introducing the “15-Minute City”: Sustainability, resilience and place identity in future post-pandemic cities. Smart Cities, 4(1)、 pp.93-111.
ⅱ Moreno,C.、 La ville du Quart D’heure : Pour un Nouveau Chrono-Urbanisme.
ⅲ Paris ville du quart d’heure, ou le pari de la proximité. 


<プロフィール>
角 玲緒那 氏角 玲緒那
(すみ・れおな)
1985年北海道生まれ、札幌市立高等専門学校、九州大学21世紀プログラム、九州大学芸術工学府博士後期課程単位取得退学。専門は建築。現在は歴史的建造物の保存修復に従事する。2022年4月からは、北海道小樽に拠点を移して活動している。

(後)

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