2024年02月29日( 木 )

「15分都市」という都市計画理論(後)

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 前回の記事(「コロナ禍のタワマン論再考【1】 タワマンとアンスロポセン(後)」)で、アフターコロナの再開発を展望するにあたって、「15分都市」(15-Minute City)という新しい都市計画理論が注目されていることを紹介した。日本でも2021年ごろから言及されている理論であるが、その15分都市理論の大元となったパリ大学の都市理論家カルロス・モレノ氏の論文を詳しく紹介した記事が日本でまだ見当たらないので、本稿では21年のモレノ氏らの論文(ⅰ)を紹介し、日本における理論展開と実装の可能性について言及したい。

15分都市・4つのキーワード

 論文は最後に15分都市のキーワードを4つ提示している。
 1つは「密度」である。15分都市では1km四方(時速4kmで歩いて15分)の計画を想定している。ここでも超高層は、過度なエネルギー依存につながるとして否定されている。すべての人が生活に必要なすべてのサービスに接続できる、公平な範囲として15分:1km四方が模索されている。

 2つ目は「近接性」。職場、住居、病院、商業施設、学校など生活に必要なそれぞれの施設が隣り合っていることの社会経済的、そして環境的な利点である。移動が少なくて済む。

 3つ目が「多様性」。この場合の多様性には、都市の用途地域的な観点においての多様性、つまり土地の混合使用:ミクストユーズとしての観点と、住民の文化・コミュニティの多様性がある。それらが相まって新しいビジネスを生み出す。

 4つ目が「デジタル技術」である。これはすでに述べたことではあるが、デジタルとオンラインの技術が前述した密度と近接性と多様性を支える技術となりハブとなる。これは16年発表の15分都市モデルから付け加えられた項目である。コロナ禍を経て、人々は家でもインターネットを通して仕事をするようになった。移動は減り、家もしくは近隣でいろいろなサービスを済ますようになった。

 最後に、結論で言われている15分都市とスマートシティとの違いが、「15分」という時間制限を強調する重要な点ではなかろうかと思う。デジタル技術を詰め込んだスマートシティを推進しても、社会的不平等はなくなるどころか、逆に助長される。スマートシティを売り込めば売り込むほど、地価と家賃が上昇するからである。「15分」という枠組みはこのスマートさを1kmごとに分配する、平等性の観点から構築されている。

日本でこそ発展の可能性

 さて以上が15分都市の骨子であるが、都市論的にはジェイン・ジェイコブズらによるモダニズム糾弾のなかで言われていたウォーカビリティ、多様性、小さな開発の強調を引き継ぎ、加えてリチャード・フロリダらのクリエイティブ・シティ論をバックグラウンドにし、スマートシティ論を介して、それらを15分という枠組みでまとめ上げたことに特色がある。この15分というサイズは、都市部では小学校区のサイズに多かれ少なかれ適合し、イメージがしやすい。

 日本においても15分都市は取り上げられ始めている(ⅳ)。饗庭伸氏は、15分都市モデルは東京のような大都市では適用しやすいとしている(ⅴ)。高度に公共交通が発達し、また近隣で使える空き家が多いからである。饗庭氏は自身の空き家活用プロジェクトを通して、空き家であれば1年くらいがんばれば新しい地域拠点に転用できるので、必要な機能を少しずつ既存都市に埋め込んで、徒歩圏内にすべてをそろえることはできるのではないかとしている。

 国土交通省においても、今後の市街地整備の在り方を「新しいハードを建てる」から「既存のハードを使う」へと大きくシフトチェンジしようとしている(ⅵ)。市街地再開発事業においても「高度利用」が必須の手法ではなくなった(ⅶ)。

 私はこれに加えて、木造という観点が日本においては重要になると思われる。日本の空き家はその大部分が木造であり、軽量で増改築がしやすい。木材資源も豊富である。国としても市街地整備の在り方を変えようとしている昨今であるが、日本において15分都市を考えることは、先行事例とはまた違ったユニークなモデルを示すように思われる。

 都市のウォーカビリティを上げる施設デザインはここ10年ほどの1つの潮流である。写真は車道の駐車スペースをワーク&カフェスペースに転用したサンフランシスコのパークレット・プロジェクト。設置者のカフェオーナーがデザインしている。(2016年)

 写真は車道に椅子・テーブル・植栽を並べて一時的な広場とするサンフランシスコのプロジェクト。設置者のレストランオーナーがデザインしている。(2016年)

(了)

ⅳ 都市計画関連では次の論文もある。東京都市圏におけるパーソントリップ調査によれば、都心では徒歩15分以内で生活に必要なサービスにアクセスできるが、郊外に行くにつれて自動車を介さなければ15分以内にアクセスできない。(清水宏樹、室岡太一、谷口守「東京都市圏における15-minute cityの実現実態 -生活サービス拠点としての都市機能誘導区域の可能性」都市計画論文集 Vol.57 No.3, (公社)日本都市計画学会、2022年10月)

ⅴ 饗庭伸「『ネイバーフッドシティ』の条件と都市計画にゆくえ」WIRED日本版Vol.41。

ⅵ 国土交通省「今後の市街地整備の在り方に関する検討会とりまとめ」(2020年3月24日)。

ⅶ 国土交通省都市局市街地整備課長・住宅局市街地建築課長通知「市街地再開発事業の適用に関する適切な運用について(技術的助言)」(2020年12月23日)。なお上記検討会とりまとめも含めて雑誌『都市問題』Vol.113, 2022-11の特集「都市開発の市街地像」で詳述されている


<プロフィール>
角 玲緒那 氏角 玲緒那
(すみ・れおな)
1985年北海道生まれ、札幌市立高等専門学校、九州大学21世紀プログラム、九州大学芸術工学府博士後期課程単位取得退学。専門は建築。現在は歴史的建造物の保存修復に従事する。2022年4月からは、北海道小樽に拠点を移して活動している。

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