2024年05月10日( 金 )

長崎電気軌道の展望(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 長崎市では、市民の日常生活の足として、路面電車が重要な役割を担っている。路面電車は長崎市の運営ではなく、大正時代以来長崎電気軌道(株)という民間企業によって運行が継続されている。この長崎電気軌道の凄いところは、長崎県や長崎市が欠損補助などを行わなくても、運賃と広告収入だけで黒字経営を維持している点だ。長崎電気軌道の現状と黒字経営実現の理由、そして今後の課題について述べたい。

今後の計画と課題

長崎電気軌道 イメージ    現在長崎電気軌道は5路線4系統を営業しているが、赤迫から先の長崎市北部や滑石方面への延伸計画もある。だが計画が具体に至らないのは、建設費よりも道路の幅員の問題である。路面電車の線路は、道路上に敷設される。新規に路面電車の路線を設置するとなれば、道路の車線を削るか、民家などを立ち退きさせて、道路の幅員を拡げるしか方法はない。立ち退きとなれば、その交渉には長い年月を要することになる。

 この問題について、筆者は「上り線と下り線で使用する道路を変え、それぞれ単線で導入する方法を、模索する必要がある」と感じている。この場合、道路も一方通行になるが、自動車から公共交通へのモーダルシフトを実現させるためにも、あえて自動車の迂回を強いるような都市構造へ変える必要がある。

 また、2008年12月には、西九州新幹線の開業にともない、JR在来線を含めた長崎駅付近を連続立体交差化することが決まった。当時高架駅となる長崎駅近辺まで路面電車を延伸する構想も出たが、長崎駅まで乗り入れるとなれば、その分だけ運行距離が長くなる。そのために車両数や人員の増加などのコスト増が必要になるが、実際には長崎駅前電停でJRへ乗り換える人は少なく、費用対効果で考えれば増収は見込めない。

 そのため2012年10月には、長崎駅まで乗り入れる構想は廃止された。単純に歩道橋をわたってアクセスさせる方法では、高齢者や重い荷物をもった旅行者にとっては大きな負担である。筆者は、横断歩道と歩行者用の信号機も整備して、歩道橋を使用しなくても、アクセスが可能となるように、改善を行う必要があると考えている。

 それ以外に、旭大橋の架け替えを条件に、浦上川対岸の稲佐・飽の浦方面へ延伸する計画もある。また松が枝国際観光船埠頭の拡張整備にともない、国や長崎県・長崎市は、「大浦海岸通」電停から分岐させ、松が枝方面への新路線として延伸が計画されている。

 だがこれを実現させるには、車両の増加が必要になるため、新たに車庫を新設しなければならない。そのための用地確保が課題である。また延伸を実施するとなれば、長崎県や長崎市が建設費を負担するかたちで路線を延伸させ、運行は長崎電気軌道が担うようにさせる必要がある。

 それ以外に、単線区間である大浦海岸通~石橋間を複線化する計画もあるが、道路の幅員の関係で着工には至っていない。

 単線区間には大浦天主堂電停があり、大浦天主堂以外にもグラバー邸など、長崎市の観光名所が集中している。筆者は「車線を減らして道路を一方通行にすれば、路面電車の複線化が可能だ」と考えるが、予算問題よりも道路の車線を減らして路面電車へ転用することに対する住民などとの合意形成のほうが大変だと感じている。

 これを実現させるには、長崎市長の市内交通やまちづくりに対する明確なビジョンを示し、長崎市民の合意形成を図る必要がある。

 また長崎電気軌道で使用する車両は、他の都市で使用されていた車両を譲り受けて使用しているため、老朽化が進んでいる。いつまでも長崎電気軌道の自助努力に頼っているだけでは、低床式の車両の導入が進まない。それには長崎県や長崎市からの車両導入に対する補助が不可欠だといえる。

(了)

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